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「仕事しながら通信で通ってるってことしか聞いてないです」
律仁さんの威圧に負けそうになりながらも、恐る恐る答えると寄せた眉間の皺は一瞬で解かされ、安堵した様子を見せていた。
「そっか。仕事、半休だったし、何となく。渉太くんいるかなーって」
怒ったように顔を埋め顰めたり、急に笑顔になったりと矢張りこの人は分からない。それになんで自分がいるからと普段忙しないはずの人が学校へ来る理由になるのかも。
半休があったら家でゆっくりしたいと思わないんだろうか。ふと、大樹先輩の律仁さんに気に入られているというのが頭を過ぎる。
本当に自分はこの人に気に入られてるんだろうか。
「あ、先輩にあのこと言ってなかったんですね」
「ああー渉太くんが大樹のことが好きなこと?」
悪びれもなく小さくない声のトーンで話されて渉太は慌てふためいた。周りを見渡しては本人がいないことを確認する。もし、大樹先輩に聞かれていたらと思うと冷や冷やしたが、幸い天文部の人も大樹先輩もいなさそうなので胸を撫で下ろす。
この人にはやっぱり配慮とゆー言葉がない。
「そんな声に出して言わないで下さい·····」
律仁さんは「ごめん、ごめん」と軽く申し訳程度に謝ってくると右手で頬杖をついて自分に目線を合わせてくる。
「別に自分の事じゃないから大樹に言う必要もないし、こうゆうの人伝で聞くもんじゃないでしょ?」
的を射る返事が返ってきて、渉太は頷くことしかできなかった。確かに口の固い人間ならそうなのかも知れない。しかし、渉太にとって不可抗力でも第三者に気持ちを知られてしまうのは嫌な過去と結びつくだけに気鬱になる話だった。
「伝えないの?大樹に」
自然と俯きがちになる。伝えるわけない。
伝えられるわけがない。自分の好意に寄って人を不快にさせるくらいなら自分の気持ちなんか伏せていた方がいい。
「伝えないです。そもそも先輩には彼女がいるので。まあ、それ以前に結果なんて分かってましたけど·········」
「ふーん·····」
向かい側から感じる視線に緊張を覚えながらも膝の上で握る手が汗ばむ。尋問されているようで落ち着かない、早くこの話題が終わってくれないだろうか。
「じゃあさ、俺から言っていい?」
「はい?」
渉太は律仁さんの言葉に顔を上げては目線を合わせた。何を言われるのだろうかと身構える。話の流れから、自分の恋愛に口出ししてくるのだろうか。
「渉太、俺と付き合わない?」
「え?!」
一瞬にして時間が止まったように身体が固まる。笑顔のまま何事もない言葉のようにさらっと放った律仁さんに渉太は驚いて言葉が出てこなかった。なのに心拍数が上がって徐々に身体中が震えてきた。
俺今、告白された·····?
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