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一瞬で何となく悟ってしまった。
多分この人が大樹先輩の·····。
「あーそう。こっちが麻倉律仁で俺の友達。で、こっちが早坂渉太。天文部の後輩」
大樹先輩は後ろの女性に分かりやすく、手のひらで差すようにして渉太と律仁さんを紹介していた。
女性は「ふーん。そうなんだー」と頷いては「仲島愛華 です。よろしくね」と上品に微笑んできた。
普段女の人にはときめいたりしないが、女神が降りてきたとはこの事を言うんじゃないかというような笑顔を向けられ、身体が固まる。
渉太は椅子から立ち上がっては、ぎこちなく「宜しくお願いします」と頭を下げた。
一方律仁さんは立ち上がることなく「どうもー」とだけ軽く会釈する程度だった。
てっきり飲み会のときみたいに愛想よく笑顔を振りまくと思っていただけに違和感を感じる。
「大樹の彼女?」
「ああ、そうだ」
律仁さんの問いにあっさりと認めた大樹先輩。ああ、やっぱりかと分かっていたけど更に凹んでしまう。
だけど、自分か彼女かなんて比べるに値しないが断然に性別的にも容姿的にも文句無しに彼女だ。
「素敵な方ですね」
自分の動揺している気持ちに気づかれたくなくて誤魔化すように彼女さんを褒める。
握る両手に力が入っては手が震えていた。
「ありがとう。渉太」
「いいえ·····凄いお似合いです」
次らか次へと自分の傷を増やすような言葉が出てくる。
自分で言って傷ついては、先輩に言われてる御礼でさえ苦しい。
自分はちゃんと装えているだろうか。
大樹先輩に不審がられていないだろうか。
苦しんだって変わらないのに·····。
「渉太」
テーブルの下で足を小突かれて、向かいを見ると律仁さんが自分の目線に合わせるように腕に顎を乗せては此方をじっと見ていた。
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