「律のラブソングは切なくて、自分も恋愛を疑似体験した気分になるっていうか·····それが心地よくて·····」 尚弥も無表情のまま手首を握り、自分を見つめてくるので、緊張とドキドキで自分でも口だけが先走って何を喋っているのか訳が分からなくなる。 尚弥は今何を考えているのだろうか·····。 表情から全く読み取れない。 ふと、手首が前方へ引っ張られて身体が前に傾いた。バランスをとって体制を整える暇もなく唇が軽く触れ合うように重なる。 「えっ！？」 渉太は勢いよく肩を押しては尚弥から離れた。キスをしたと自覚した瞬間に足先から頭まで全身に熱が上がる。 自分は今、夢を見ているんだろうか。 当の本人は顔色をひとつも変えずのきょとん顔だった。 「何？」 「何って。こっちのセリフ·····。今、尚弥俺に·····キ、キ·····スを·····」 自分が過剰に反応しすぎなのかと疑う程に冷静な尚弥に動揺する。尚弥からってことはそうだと捉えていいのかさえ本人の様子からじゃ読み取ることすら困難で高揚感と不安で心が揺れる。 「渉太って意外と可愛いところあるんだね。凄いわかりやすい」 尚弥には既に自分の想いに気づいたような物言いにドキリとする。 表に出していないつもりでも、至近距離に尚弥がくるといつも緊張していた。 勘のいい人には分かってしまうくらい自分は表に出てしまうタイプなのかと·····。 「.......俺、その、だから。尚弥とそういうことをするのは俺には意味があって.......」 先程のキスで恋愛スイッチが入ったかのように、尚弥に今気持ちを伝える以外の選択肢はなくなっていた。