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先程のキスで告白スイッチが入ったかのように、尚弥に今気持ちを伝える以外の選択肢はなくなっていた。
バレているのであれば一層のこと、打ち明けてしまった方が楽な気がした。
それに確信はないけど、不思議と尚弥なら否定的に返されることは無いような気がして渉太は手に汗を握りながら深呼吸をする。
「意味?」
首を傾げてくる尚弥はわざとなのか本気なのか分からない。でも、少しでも望みがあるのであれば、この気持ちを伝えたい·····。
「えっと、その。俺、尚弥のこと好きみたいなんだっ」
尚弥の表情は一瞬目を見開いただけで差程驚いていないようだった。やっぱり分かっていたんだろうか。
尚弥への気持ちを言葉にした途端に緊張で
手も足も震えて立っているのがやっと。
尚弥の返事を早く聞きたいようで、聞きたくない。渉太は祈るように強く自分の両手を握り合わせていた。静かな音楽室、微かに廊下から聴こえる声だけが尚弥との間に流れる。
振られようが振られまいが、早く終わってほしい·····。
「それはラブかライクかどっち?」
「どっちって.......。ラブ.......」
「ふーん、そう」
尚弥は静かに頷き、考えては微かに微笑んだ。
「渉太にそう言われて嬉しいよ」
椅子から立ち上がり、目の前にいる渉太の肩を軽く叩くと音楽室の扉の方へと向かっていってしまう。
自分の気持ちは伝えた。
偏見的な反応ではなくて安心したが、肝心の尚弥自身の気持ちを聞いていない。
渉太は引き止めるようにして「尚弥はこんな俺のことはどう思ってるのかな·····」と聞いたところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまい、声がかき消されてしまう。
なんともタイミングが悪い。
引き止めてまで聞く勇気などなく、そのまま音楽室から出ていく尚弥の背中を見ている事しか出来なかった。
「可愛い」とか「嬉しい」とかキスとかどういう意味なんだろう。
恋愛経験の浅い自分じゃ分からない。
尚弥の気持ちがどこを向いているのかも·····。
だけど、今だけは素直に喜んでもいいだろうか。キスされて舞い上がるなんて何処ぞの少女漫画の主人公だよって突っ込みたくなるが、あながち間違ってない。
それくらい、浮き足立つ思いでいた。
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