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言葉はナイフのように胸に突き刺り、容赦なく渉太を貫いていった。 抜いては刺して、抜いては刺しての繰り返しに渉太はだんだん立っていられずにその場にしゃがみ込んだ。 気づいたら瞳が潤み、水滴がタイルの床にポタポタと落ちていく。 「泣かないでよ、僕が悪いみたいじゃん。渉太が悪いんじゃん。勝手好きになって舞い上がってんだもん」 尚弥に返す言葉が出ない。 「本当、ちょっと僕がからかったくらいで、そうやって勝手に恋愛対象にもっていく奴等気色悪い。僕ゲイでもなんでもないから、僕を不愉快にさせたちょっとした仕返しだよ」 そんな状況を見ても尚弥は言葉を刺してくるのを止めてくれなかった。 良いだけ喋って渉太を痛めつけては最後に「僕さ、明日の終業式終わったら留学するんだよね。だから渉太とは最後だね。楽しかったよ」と言い残しては御手洗を出て行ってしまった。 立ち上がるのなんて到底無理で渉太は抜け殻のように座り込んだ。 手のひらで拭っても心を裂かれた傷が涙となって溢れては嗚咽する。 終業式、日野達とも尚弥とも会うのが嫌で欠席した。 夏休み中、あんなに楽しみにしていた律のライブは当然、行く気にはなれず姉にチケットを譲った。屍のように生きていた夏休みが明け、尚弥はもういない。 意を決して学校へと行ったもののクラスから受ける自分の視線は冷たいものになっていた。当然日野たちも以前みたいに話しかけてくることはなく、遠くの影で視線を感じながらもあることないことの噂話。 そんなクラスから浮いた生活なんて慣れてしまえばと思ったけど、次第に身体が重くなり、一週間で限界がきた。 不登校が続き、高校は辞め、親の為にも高校だけは卒業したくて人と関わり合わなくていい地元の通信制に転校する。 進路を決める年になった時、それまで尚弥を思い出しすから避けていた律をたまたま音楽番組で見た。 久々に見た律は眩しくて、顔だけなんて言うけどそんなことない。 歌声だって、最後に聴いた時より格段と上がって磨きがかかっていた。努力してる人だと。 そんな律の姿に勇気を貰った渉太はもう一度ちゃんと人から逃げるんじゃなくて向き会いたいと思えた。そんな律の後押しから渉太は地元じゃなくて都心に上京することを選んだのだった。

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