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暫く空を眺めていると隣の律仁さんのスマホが鳴り、「渉太、ごめん」と立ち上がっては木陰の奥の方へと行ってしまった。
ついさっきまで人といたせいか、律仁さんが居なくなった途端に心細くなった。渉太は辺りを見渡すと最後に見たときには部員達が屯っていた筈の天体望遠鏡のある高台には大樹先輩が一人だけだった。
中腰になり、望遠鏡越しに空だけをじっと眺めている。
遠くに居ても声が聞こえるくらいあんなに賑やかだったのに他の人や大樹先輩の彼女さんは何処へ行ったのだろうか·····。
しかし、これは渉太にとって大樹先輩と話ができるチャンスだった。遠目から見て諦めるつもりでいた今日。律仁さんの言葉で動かされた心。
渉太は心の中で何度も「大丈夫だと」自己暗示をしながら、ゆっくりと高台へと登り、大樹先輩に近づいていった。
背後から近づき、どう声を掛けようかと悩みながらも集中している先輩に声を掛けるのは気が引けていた。右手を背中に近づけたり、遠ざけたりを繰り返す。
すると、急に上体が上がる気配がして渉太は慌てて身を引かせた。
体勢を整えた大樹先輩は驚いては慌てている渉太に気づき目が合ってしまう。
「おっ、渉太。渉太も見るか?」
「はい……」
本当は望遠鏡を覗いている余裕などないが、
大樹先輩に促されて思わず頷いては、
腰を屈めるとレンズの中を覗く。
肉眼でも充分綺麗だが望遠鏡越しに見るのはまた一味違う。
ぼんやりと見えていた星がくっきりと見えていてより一層輝いて見える。
あれとあれはなんの星座で.......なんて考えながら見るのはワクワクする。
サークルに入りたてもただただ自分の好きな事が楽しくて純粋にこんなんだったなーと思っては懐かしくなった。
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