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渉太は、もう少し律仁さんと直接会って話ができればなんて思っていた。
向こうから来ないと会えないことにもどかしさを感じる。
自分の話もしたいがそれ以上に律仁さんの事が知りたい。
何のお仕事をしている人なのか。
どんな生活をしているのか。
通信で仕事と勉強を両立しているなんて凄いことだから。
今度会えたとき連絡先でも訊いてみようか……。
自分が律仁さんに踏み込んでいい人間かは分からないけどどんな形であれ、ちゃんと律仁さんと向き合いたいと思うから。
「渉太くん、聞いてる?」
渉太は背後から話しかけられて我に返った。午後21時のバイト先。
お弁当の品出しをしていると一緒に背中合わせでパンの品出し作業をしながら花井柑奈 さんが話しかけてきていた。
学部は違うが同じ大学の同学年。
大学では滅多に顔を合わせることは無いが、
平日の高校生がいない時のシフトで、よく一緒になる。
「ああ、なんでしたっけ……」
僭越ながらにも自分のことを考えていて、彼女が話かけてきていた内容は全く聞いていなかった。
「こないだ、律みたんでしょ?どうだった?」
「えっ?」
「ほら、こないだ仁香 ちゃんが見たんですよって言ってたじゃない?渉太くんあの後見に行っただろうなーって思ったから」
あの時高校生が話してた相手は確か花井さんにだった。花井さんは自分と違ってしっかりしていてアルバイトの女子高生にはお姉さん的立ち位置だった。
そして、自分が密かに律のファンであることを知っている。
自ら話をしてはいなかったが、律が表紙のyanyanを無くした翌日、どこ探しても雑誌が売ってなくて奇跡的にバイト先である自店に売っていたのを見た。
買うか悩んだ末、やはりどうしても手元に欲しくて恥を忍んでバイト終わりに買ったレジが花井さんだったのがきっかけだった。
バレるのが恥ずかしくて「姉のだと」嘘をついてみたが、以前一人暮らしであることを話していたことをつつかれて白状せざる負えなくなった。
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