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自分もそういうのが寄り付いてくることが過去に何度かあったし、その度にどうにか追い払えていたが、仮にも大樹の彼女だからタチが悪い。この様子だと大樹が元アイドルだということは知っていそうだし、何より深入りしてる大樹をあまり刺激したくない。 だからってこの手の女は下手に優しくしてやると調子に乗って、相手の手の内に引きずり込まれる。 「何やってんの、離れてくんない?」 あくまで手を上げて女に触れないようにする。 「ねぇ、この後どっか抜け出さない?」 「あんたには大樹がいんだろ」 「んー別に長山くんには適当に体調悪いから律くんに送って貰うとでも言えばいいかなー。彼優しいけど、天体ヲタクだからつまらないんだよね。 ホント一般人に成り下がったって感じ。それよりも、わたしの本命は律くんなの。長山くんが、アイドルだったっていうのは見た時から知ってたし律くんの元相方だったから一か八かで声掛けたのは正解だった」 色気づいて囁くような女の声。 近づく顔。一件美人でも心の汚さは顔に現れるとよく言うが全くその通りだった。 俺も人のことは言えない、こういう仕事で色んな人間の闇の部分を見てきたし自分も渉太みたいに決して心が綺麗だとは思わない。 好きでも無いやつに抱きつかれるのは不愉快極まりない。律仁は女を蔑んだ目で見下ろすと鼻で笑った。 「そんな顔面で俺を落とそうとしてんの?」 「はっ?」 「心の汚さが顔に出てんだよ。いい加減離してくんない?タイプじゃないし」 「何よっ」 愛華はそんな律仁の言葉を聴くなり、すぐさま離れた。 今まで繕っていた笑顔と男を誘う甘い表情は何処に行ったのかと言うほど眉を寄せて顔を歪ませる。少しつついてやれば直ぐに本性を表す女。 大樹はこんな女の何処がいいのか分からない。しかし、それは女の裏の顔を知らないだけで、大樹がこの女の表面上の顔に相当毒されていることは分かった。 「ちょっと有名だからって調子乗ってんじゃないわよ」 「調子に乗ってんのはどっちだよ。あんたさ、裏でアイドル潰しで有名でしょ。本人たちにも事務所から要注意人物として釘刺されてるのが殆どだし。だから最近、遊んでくれる相手いなかったんじゃない?」 図星だというように血気が盛んになったのか、見る見る内に顔が真っ赤になっていく。外面だけ美人もここまで醜態晒すとそれ程でもないなと思う。 「これを機会に行動、改め直したら?」 助言でもない皮肉ったように女に吐き捨ては その場を後にしたのがあの日の出来事だ。

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