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全てスキャンが終わり、渉太は手元から目線を外さずに律仁さんに金額を告げる。 「グラタン、温めますか?」 「お願い」 頭上から降ってくる優しい律仁さんの声。顔を上げたくなるが、グッとこらえてレンジの元に行くと記載通りの一分半にセットする。 その間にペットボトルと煙草をレジ袋に詰める。カルトンに出された小銭を手元まで持っていこうとした時に、手に律仁さんが触れてきては、渉太は驚きのあまり顔をあげてしまった。 先程まで目線を合わさないようにしていたが、目の前にいるのは紛れもなく律だった。 指先の緊張が全身にまで伝わる。 「やっと目、合わせてくれた」と微笑んできたその顔は、花井さんに見せていたような笑顔ではなく、いつもの律仁さんのような柔らかい表情。 思わず見惚れてしまいそうになるのを渉太は慌てて目を逸らすと、小銭を受け取ってはレジに打ち込む。しかし、気が動転してボタンを間違えそうになり手元が覚束無かった。 「渉太、バイト終わるの22時だよね?その後俺に時間くれない?」 それをきっかけにしてか、律仁さんが喋りかけてきた。完全に無視はできない状況に渉太はどう応えるべきか悶々としていた。律が……律仁さんが誘ってくれている。 嬉しいことなのに素直に喜べないのは、目の前の彼が自分の憧れの人だから…。 これ以上、律仁さんと話して膨らんでいく想いに耐えられない。やっぱりどう足掻いても自分と付き合ってはいけない人の事実は変わらないから、どんなに仕掛けてこられても動じないように自制するしかなかった。 「……お、俺は…律仁さんと話すことはないので…」 渉太は律仁さんを警戒しながらお釣りを出しては、強めにトレーに乗せて差し出す。 そのうちに背後からピーッピーッとグラタンが温まった音がして別の袋におしぼりとスプーンを一緒に入れた。 「少しでいいんだ……俺が渉太とちゃんと話したくてさ。近くのアトリエってカフェ分かる?そこで待ってるから終わったらきて」 「えっ……ダメです、俺…」 律仁さんは半ば強引に取り付けられた誘いの返事を言い終わらないうちに、レジ袋を受け取ると足早に店を出て行ってしまった。あくまで長居はしないし、終始小声でのほんの数分の出来事。 少なからずあの身なりでの行動には気をつけているようだった。 渉太は勿論行くつもりなんてない。 大樹先輩にも言われていたが、律仁さんが律の活動をする上で不利になるような行動は起こしたくない。 もし自分と会って…律に悪影響を及ぼしてしまう…なんて思うと、胸が押しつぶされそうになる。 なのに返事すらさせてくれない律仁さんはやっぱり狡くて、渉太を困惑させた。

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