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律仁さんが帰った後、案の定花井さんが食い気味で律のことについて食いついてきた。
「あれ律だよね……?渉太くんって律と知り合いだったの?」「凄いじゃん」なんて話しかけられて愛想笑いをして適当に濁してはやり過ごした。
どう言うつもりだったんだろう……敢えてバレるような格好をして…。
午後22時のバイト終わり。
深い溜息を吐いては自転車のスタンドを蹴りあげるとハンドルを握って、自転車を押しながら駅方面へと歩いた。
律仁さんは近くにあるアトリエという珈琲店で待っていると言っていた。
返事はしていなくても行ってはいけない。
ただのファンがいとも容易く本人と逢えていい訳なんかないから。
悶々としながら歩道を歩いていると律仁さんが言っていた珈琲店の近くまで来た。車が行き交う道路を挟んで向こう側の歩道のビルの1階、窓際のボックス席にそれっぽい人がいた。
流石に先程のように無防備ではなく、
見覚えのあるバケットハットに眼鏡を掛けて窓の外をぼんやりと眺めているようだった。
そんな姿でさえ、ドラマのワンシーンを切り抜いたかのように絵になっては見惚れてしまいそうになるのは律だと知ったからだろうか。
渉太は道路を渡ることはせずに、そのまま視界に入らないように足早に通り過ぎる。
一刻も早くその近くから離れたくて懸命に押す自転車のハンドルに力が入る。
時折、すれ違う人にぶっかっては謝りながらも大きな通りを抜け、珈琲店が見えなくなって暫く歩いた所で渉太は立ち止まった。
気にしないようにしても、待たせている律仁さんの姿を思い出しては良心が傷んだ。
自制しようとする心と衝動的に律仁さんと話したいという心がぶつかって、自分がどうするのが正解なのか分からなくなる。
最後にあったのは週刊誌を知る前でその後は会っていなかった。
せめて、待ってくれているのだから、挨拶くらいは告げておくべきだろうか。
律仁さんには沢山背中を押してもらったし、感謝だってある。だからこそ、逃げてそのままバイバイじゃなくて、応えてから別れるべきじゃないだろうか……。
渉太は暫く考えたあげく、踵を返して重たい足取りで来た道を戻る。
どんな顔をして律仁さんと話せばいいんだろう…なんて永遠に考えては気づけば目的地まで到着していた。
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