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「それは事実を知る前です」
「俺は渉太のホントの気持ちが知りたい。
渉太が俺の事想ってくれてるなら、俺は渉太を絶対不幸にさせない、俺が守ってみせるから……」
引き下がらない律仁さんに心が動かされそうになるが、渉太は顔を上げ、左手にだけに全て感情を込めると冷静になった心で、律仁さんを見据えた。
「律仁さんが前に投げかけてくれたことありますよね。芸能人と付き合えたらどうするかって、あの答えが俺の全てです」
あくまで感情を表に出さないように心を鬼にして冷淡な口調で話す。
こうでもして突き放さないと律仁さんは諦めてくれない気がしたから……。
「そっか……ごめんね。俺の一方的なわがままで」
その冷たい視線を感じとったのか、律仁さんの包む手がゆっくりと離されると身体を背もたれにつけては寂しそうに窓を眺め始めた。
外は雨が降り始めたのか、慌てて鞄で頭を防ぎながら駅の方に走って通り過ぎて行く人がいた。
こんなに必死で余裕のない律仁さんは初めてみた。いつもは俺をからかって悪戯に笑ってる癖に……こんなこの世の終わりのような姿を見せられたら縋りたくなってしまう。
渉太はそんな律仁さんの姿を見て、せめてもの嘘だらけの気持ちを伝えるんじゃなくて、目の前の人に口に出せる本音を伝えようと思った。
「律さん…」と声を掛けると律仁さんは顔を此方へと向ける。
「これからも律さんのこと、ファンとして応援させてもらいます。俺は律さんの曲に活躍してる姿に辛かった過去からも救われました。勇気を貰いました。きっと他にも沢山、そういう方がいると思います。だからこれからもあなたの活躍で沢山の人を救ってください。夢を見させてください。沢山の人の生きる糧になってください。俺も、律さんを応援し続けますから……テレビで見る、律さんが大好きです」
こんなに想ってくれていて彼をも傷つけるであろうと分かってはいるけど、自分が正直に言うことで沢山の誰かを不幸にしてしまうなら、これが一番最良の決断だと思った。
あくまで俺は律のことが好きなのだと。
これで丸く収まるのなら……
こんな唯の一ファンの大学生のことなんて
律仁さんだってすぐに忘れてくれる……。
律仁さんは「渉太…それは狡いよ。でも、ありがとうね」と言うと哀しそうに律の顔で微笑んでいた。
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