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募らせた不安のまま、律仁さんとの会話もなく車はどんどん目的地まで進んで行き、到着した場所は都心側にある橋の上だった。
橋の鉄柵に身を乗り出した先には都心の眩しい明かりがパラパラと見える。
上を見上げれば点在とした夜空の星、街の灯りと星の明かりが融合してこれはこれで綺麗な景色だった。
「天体好きの大樹みたいに満天の星空って訳じゃないけど、俺が思い当たるのここくらい」
「綺麗です。こういう街の灯りと合わさった景色も結構、好きなんで……」
じっと眺めていると隣から「渉太、ごめん」と声が聴こえて振り向くと、律仁さんは柵に肘を乗せ両手で額を押さえていた。
何か思い詰めた様子に自分は何か余計なことでも言ったのかとドキリとする。
「俺さっき、素っ気ない態度だったよね?
渉太に余裕ある格好良いとこ見せようと思っても、渉太から律のこと聴いちゃうと余裕なくて……律も自分なのに変だよね」
話を振って後悔した律のこと。
律と律仁さんは同じ人物だとしても、自分の中では意識は違う。
律は俺の憧れだけど…律仁さんに対してはもっと深い愛情があるから…。
「変じゃないです。俺も律のときの律仁さんは別人のように見えたので……つい……」
明らかに落ち込んでいるような律仁さんに何て声を掛けようかと戸惑っていると、律仁さんは「やっぱり律だよなー」と小さく呟く。
「渉太からアトリエで待ってって言われた時、変に舞い上がっちゃって握手会に集中できなかった」
律仁さんは押さえた手を解くと、遠くの景色を眺めるように話始めた。
やっぱりあの場での発言は律仁さんの気を悪くさせてしまったんだろうか……。
律仁さんのことなんて考えずに自分が一方的に伝えたくて起こした行動だったから……。
「それは、すみません……」
「渉太を責めてる訳じゃないから……」
律仁さんが自分に対しては今、どう思っているのか分からないけど伝えなきゃ。
あの時嘘をついてしまったから、今は本当の気持ちを伝えたい。
「あの……俺……律仁さんとは…ファンとかじゃなくて……対等な関係でいたいです」
渉太は律仁さんの方に身体がごと向き直すと、表情を表さずに景色を見据えたままの横顔に話しかけた。
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