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「いいよ、あのときバイト帰りだったのか渉太は下向いて歩いてたし。店に出てきたとき渉太とぶつかって落としたパスケースの名前見てまさかって思ったんだ」 渉太は律仁さんには腑抜けた恥ずかしい姿ばかり見られていると思うと今すぐ地面でも掘って隠れてしまいたくなった。 そんな気持ちの渉太をお構い無しに、律仁さんは自分とあった出来事を懐古するかのように話していく。 「それからアトリエの窓から渉太が通るの見てたりした。渉太にお礼を言いたかったけどファンレターの住所が県外だったから確信はなかったし、場所も場所で声を掛けれなかったんだ。そんな時、大樹からたまたま渉太の話聞いて。会ったら好きだなーって」 自分が出会う前から律仁さんは自分のことを認識してくれていた……。 おこがましいかもしれないけど、自分の手紙が律仁さんの力になれていたと思うと浮かれるなという方が無理があった。 「そんなんで好きになるもんなんですか」 本当は嬉しいのに、素直に喜びの感情を表すのが恥ずかしくてこんな弄れたような質問を問いかけてしまう。 「なるなる。人を好きになるのに明確な理由はないよ。初めて会って雰囲気で感じて好きだと思ったんだから。だから、あの時最初っから猛アプローチしてたんだけど渉太鈍いからさ」 言われて見れば自分も気づいたら律仁さんを好きになっていた。 初めて会ったサークルの飲み会の時、律仁さんにはいい印象を持っていなかったのに……。 完全に偏見の塊で、急に筆跡診断みたいなこと言ってくるし、人の恋路を茶化すように笑われたし……。あれも今思えば、律仁さんのアプローチだったんだろうか……。 すると、抱き竦められていた身体が離されては、「俺を支えてくれて、ありがとう」と律仁さんが微笑えんできた。渉太は不意の笑顔に照れると俯いてしまう。 褒められ慣れていない上に、律仁さんのその表情は反則すぎる……。 「俺はそんな大それたことはしてないです……」 「だから、渉太は自分を過小評価しすぎ」 両頬を律仁の右手で挟むように摘まれ、唇がひょっとこのようにとんがる。 「恋人にしたいランキングにも君臨する律が惚れた男なんだからもっと自信もってよ」 「ほぉーいわれましても……」 頬を摘まれているから当然、喋り方も阿呆っぽくなってしまっていた。 律仁さんの事が好きだ、胸を張って言えるけど、自分の事に関しては直ぐにそう簡単に過大評価できるわけもなく……。

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