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「だから大樹の話は終わりね?」 距離を取ったはずなのに更にグッと律仁さんが近づいてくる。先輩の話からいきなり変わった場の雰囲気に渉太は戸惑った。 「これ以上、渉太に大樹のこと考えられると俺、妬いちゃうから」 「あ、いやっ……大丈夫ですっ。先輩は唯の俺の尊敬できる人みたいなもので……」 「尚更、妬ける。渉太、大樹のこと好きだったしなー……」 訝しげに自分の様子を伺ってくる律仁さん。 先輩には特に思い入れた恋愛感情というものは、もう無くなってしまっているから挙動不審になる必要はないと分かっていても、 律仁さんの犯人を突き詰めるかような鋭い眼差しに、自然と目が泳いでしまう。 追い詰められてソファの背もたれに背中がくっついては、見下ろしてくる律仁さんと目が合う。もう距離をとりたくても逃げられない……。 「俺にはっ……律仁さんだけですからっ……」 渉太は恥ずかしくて目を瞑りながらも、強めに言い放った。律仁さんと付き合うことを覚悟したのだから、自分も徐々に変わっていきたい……。後悔しないためにも気持ちはちゃんと伝えなきゃと思っていた。 「じゃあ、渉太からして?」 律仁さんが眼鏡を外しては自身の唇を人差し指で軽く叩いては微笑んできた。 その顔でそのお強請りは……余計に渉太の頭が沸騰して溢れ出てきそうになってしまう。 律仁さんの芸能人でいる時のオンとオフは眼鏡で切り替えているみたいで、普段の律仁さんは俺が緊張するのを分かっているからキスの時でも眼鏡を外さない。だから、鼓動は半減されているけど……。 「あ……えっ。律仁さん、それは反則ですっ。俺、そんなんされたら心臓が持たないです」 「じゃあ、慣れてもらうためにつけないよ? これも俺の素顔なんだから。キスの時眼鏡あったら邪魔でしょ?」 「それは……」 渉太が言葉を濁していると、「はやく?」と催促するように、もう一度唇を触る律仁さん。 渉太は意を決して、律仁さんが背もたれに手をつけて支えている腕を掴んでは、少し上体を起こすと、律仁さんの待っている唇に届くように顔を上げて軽く触れた。

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