179 / 295

※※

「渉太のそういう控えめなところ好きだけど、俺としては渉太にはちゃんと勇姿を見届けてほしいなー……?」 「……」 笑顔の次は畳み掛けるように目の前に立ち止まってくると自分の顔を覗き込んできては、強請るような目で此方を見てくる。 薄暗くても公園の街灯で微かに見える表情。 こんな律仁さんのコロコロと変わる表情は反則級で、世の中の女性はこんな顔で律に見つめられたら頷かずには居られないんだろうなと思う。 だけど、律のコンサートは争奪戦だし、幾ら自分で抽選をかけるからと言って取れるとは限らない。だからこそ自分は恋人の権利を使う事に躊躇いを感じては渉太は素直に頷けずにいた。 「じゃあさ、こう考えてみて?渉太が抽選かけないことで俺のファンの子が行ける確率は少しでも上がるし、渉太分の席に他の子が入れる。渉太はただ、行きたいか行きたくないかで考えてみて?」 眼鏡の奥からの真剣な眼差し。 律仁さんと付き合って自分に正直になると決めた。だから今までのように、でも…とかだけど…とか言っていちゃいけない。 「……行きたいです。律が生で歌ってる姿見たことないからっ……」 律仁さんに「正直でよろしい」と目線が合わさったまま笑顔で頭をぽんっと叩かれて胸がキュッとなった。 こんな公の場なのに律仁さんとキスをしたいと思ってしまった自分の衝動を抑える様に、渉太はショルダーバッグの紐を握って俯いていると律仁さん先を進んでは思い立ったように振り返った。 「大樹も呼んどくから大樹とおいで。あいつもう一般人だから。それなら渉太も気兼ねないでしょ?」 「ありがとうございます」 頷いたものの自分一人だったら気負いすると察した律仁さんは大樹先輩も呼ぶと気を効かせてくれたことに少し胸を撫で下ろした。 渉太は深々と頭を下げては、律仁さんの元まで駆け足で向かうと、再び並んで歩き出す。

ともだちにシェアしよう!