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そんな朝の出来事から、新人マネージャに扮して撮影現場を見学してもらえることになった。
事務所でマネージャさんから名刺を貰う。吉澤明良 と言って年齢は48歳、律が幼い時からの付き合いで、父親みたいなものだと律仁さんが移動中の車内で教えてくれた。
現場に到着すると律仁さんが個別の控え室でメイクをしてもらっている中、突っ立っているのも不自然で落ち着かなかった渉太は、吉澤さんの現場の挨拶周りに着いていくことにした。雑誌のお偉いさんや現場を仕切るチーフの方、アシスタント、カメラマン、など一人ひとりに律に変わって挨拶をしていく。
こんな華やかに律を湧き立たせる影でも裏で支えている人がいて頭が上がらない。
ひと段落したところで、吉澤さんに控室で律仁さんと待っているように促されて、中へ入ると律仁さんもメイクが終わっていた。
「渉太、お疲れ」
入るなり、紙コップの飲料を飲んで歩き回っていた律仁さんと目が合っては笑いかけられる。
目の前にはヘアメイクも衣装も出来上がった|浅倉律《あさくらりつ》がいる……。
直視ができない……。
「お、お疲れ様ですっ」
渉太は目線を外しながらも確かにそこに居て、此方へとゆっくり近づいてくる律仁さんの気配を感じていた。
「吉澤さんと一緒に居たんでしょ?どうだった?」
「き、緊張しましたけど、こういう撮影現場初めてだったので吉澤さん含めて沢山の人が動いていて凄いなーって…」
「そっかー……」
問いかけられて答えては見るものの、意識は律仁さんにあってそれどころじゃない。
声は律仁さんだし、中身は変わらないから緊張する必要がないと分かっていても雰囲気が違う。
「渉太、目線ずれてる。俺のこと見てる?」
「み、見てます。い、衣装…か、かっこいいです」
ちゃんと自分の目で見てもいない。
だけど、格好良いのなんて分かりきった事で、実物を間近で見てしまうと自分は気絶してしまのではないかと思うくらいに心臓がドクドクする。
「全然目が合わないんだけど?」
残り数十センチのところで動く気配が止まる。
顔など上げられず、律仁さんの衣装のジャケットのボタンに視線を集中させていると、律仁さんに顎を摘まれては顔持ち上げられてしまった。
「はひっ、」
「渉太。ちゃんと、俺のこと見てよ」
強制的に向けられた目線の先には律の顔。
前髪が上げられた髪型に、整った顔立ち。
オマケに白いジャケットを羽織っているものだから王子様みたいで、頭がクラクラしそうなくらい熱が上る。
「なんてね。渉太、顔真っ赤」
なにも言葉を返すことが出来ずに、ただぼーっとすることしか出来なかった渉太を見て律仁さんが冗談めかしたように笑った。
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