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この間みたいに自分は全く喋れずに律仁さんに守られているばかりじゃいられない……。 自分自身が彼と向き合わなきゃいけないから……。 手に汗を握らせながら、藤咲の反応を伺う。 藤咲は「馬鹿馬鹿しい」と深い溜息を吐いては、俺たちから目を逸らした。 「そんなに俺たちが付き合ってること尚弥くんは不快?」 「不快です。男同士なんてろくな事ない……挨拶に来ただけなんで、今日は宜しくお願いします。では」 藤咲は深々と頭を下げると、扉を開けて部屋を出ていってしまった。 藤咲にちゃんと言い返せたことにホッとしていると後ろから「渉太行かなくていいの?」律仁さんに背中を押されて、渉太は慌てて藤咲を追いかけた。 ゆっくりと歩いていく凛とした後ろ姿。 これから自分の控え室に戻るのであろう。 律仁さんとの控え室と差程遠くのない距離。 その前にどうしても聞かなきゃ……。 藤咲が控え室の扉を開ける寸前のところで、 どうにか阻止をしたくて渉太はその場から藤咲の名前を呼んだ。 すると、立ち止まっては振り返ってくれたところに駆け足で近づく。 「尚弥……待って。俺、尚弥に聞きたいことがあるんだ」 何?とでも言わんばかりに目を細めて此方を見てくる。勢いで出てきたとはいえ、律仁さん抜きでの藤咲との対面はあの日以来。 先程は律仁さんも居たから多少なりとも安心感はあったけど、いざ二人になると藤咲の無表情で自分を冷たくあしらう雰囲気に怖気付きそうになる。 あのトイレで泣き崩れた日を思い出すようで胸が痛い……。 「だ、大学に……何で大樹先輩といたのか気になって……」 「いたから何?」 「もしかして……俺に会いに来たのかなって……」 考え過ぎかもしれないけど大樹先輩も久しぶりに会ったと言っていたし、藤咲と俺が再会したばかりだったこともあり、藤咲がくる理由がそれしか検討がつかなかった。 「僕が渉太に?」 「違ったらいいんだ……でも、昔……俺の前では律のことつまらないとか言ってたけど、こうやって仕事してるってことは今も好きってことだよね?やっぱり俺の隣で笑ってくれていた尚弥は全部ウソだったとは思えなくて……」 ただ藤咲の事をちゃんと理解したいだけ、 懸命に問いかけていたところで、途端に控え室のドアを蹴られて、思いの外大きな音が響き、渉太の身体が跳ね上がった。 音を聞きつけたのか、近くにいたスタッフに「何かありましたか?」と声を掛けられたのを「問題ないです」とにこやかに返す藤咲。 スタッフが立ち去ったのを確認すると 藤咲は渉太を一瞥するだけで無言で中へと入っていってしまった。 なにも話せなかった。かえって藤咲の地雷を踏んでしまったのだろうか。 渉太は肩を落としては踵を返して、きた道を戻る。すると、控え室の前で律仁さんが優しく迎えてくれていた。

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