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恋人してはどうかは分からないけど、律仁さん以外の周りの人に認めて貰えるのは嬉しい。
「君だから話すけど、最近の律仁、調子がいいんだ。いい意味で角が取れたっていうか。現場でも自然に笑うようになったんだよ」
どの雑誌を見ても律は完璧で、抜かりのない格好良さがある。
吉澤さんに言われて視線を律仁さんの方に移すと、律仁さんはスタッフさんと談笑しては、俺のいつも近くで見せてくれるような笑顔を見せていたのに驚いた。
日頃の律仁さんを知らないけど、あの初めて出会った時に見た、女の子たちに上っ面の表情を見せていたのが今までだったのだとしたら律仁さんにとってはいいことだ。
「それがカメラの前でも出るようになって、表情が豊かになったって現場監督に評判良くてさ、君が律仁のいい刺激になってるんじゃないか」
「刺激だなんて滅相もないです。実際、助けられてるのは俺の方ですし……でもだったら嬉しいです」
自分が律仁さんの活力の源になれていると実感すると、嬉しい反面、少し複雑な感情だった。
自然な表情でいられることは、撮影時にも影響が大きくて律にとってもプラスになること。ファンとしてはクールな律もいいけど、自然体な律の表情も見てみたいと思うのは当然だから……。
なのに俺だけが、親しい間柄だけが見れていた表情だけに、渉太の胸の奥からフツフツと独占的な心が湧き上がってくる。
そんな卑しい独占欲を鎮めるように俯いていると、「尚弥さん入りまーす」と聞こえてきては、暫くして藤咲が現場に入ってきた。
藤咲はスタッフに促されて律仁さんの横に並ぶ。律仁さんと肩を並べて立っている藤咲は悔しいくらいに、律仁さんにビジュアルが負けてなかった。
テーマが白と黒なのか、律仁さんが白い衣装、藤咲が黒い衣装。お互いのイメージ通りの配色で、藤咲は身長だって俺よりも高くて律仁さんと並んでも大差ないし、演奏会の時におば様方に絶大な人気を誇っていただけある。
お互いにピアノ前の椅子に座ると、進行訳の記者の方に誘導されながら、二人の音楽の話、今回のコンサートの話を語り合っている。
先程の控え室での不穏な空気は何処へと言ったように一切敵意など見せずに藤咲と話をしている律仁さんと藤咲もそれに乗っかるようにして、笑顔とまでは行かなくても顔を歪ませることはなかった。
会話と同時に切られるシャッター音が響く中、撮影は順調に進んでいった。
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