195 / 295

※※

「まぁ、今の彼の様子だと無理そうだけどね」 矢張り尚弥は俺たちのことを軽蔑しての行動だったのだろうか……それにしては、何かに脅えたようだった気がしたから……。 「でも律仁さんが……怒ってないみたいで良かったです。さっきは俺の事で……ピリついてたように見えたから……」 「もしかして俺、信用されてない?」 「そういう意味じゃ……」 別に律仁さんを疑った訳では無いけど、そうとも捉えられる発言をしてしまったのかと内心慌てていると、カーテンから律仁さんがひょっこり顔を出しては「じょーだん」と微笑んできた。 着替えが終わったのか、律の衣装からいつもの見慣れた私服と眼鏡姿の律仁さんへと変わる。 「まぁーね。渉太のことに関しては彼を許す気はないから。大切な人に強く当たってきたらそれは見過ごすわけにはいかないよ。だけど前にも言ったけど、彼との仕事は楽しいから。これとそれとは別、でも渉太に心配かけてごめんね」 律仁さんは衣装をハンガーラックに掛けると喋りながら此方へと向かってきた。 「いいえ……」 「でも、楽屋の渉太、凄いかっこよかったよ。俺のこと庇ってくれてありがとう」 目の前に立たれ、壁に右手を添わせながら俺を見下ろすようにして笑顔を向けてくる。 俺だってあの時は、律仁さんを侮辱されるような発言は藤咲相手でも許せなかっただけ。 大好きな人がこんなにも真剣に頑張っているのだから……。 そう思ってのことなのに褒められ慣れていない挙句に、所謂壁ドンをされてるこの状況で口が動くわけもなく、先程の既視感がうんだのと悩んでいたのなんか忘れて、渉太の頭は真っ白になっていた。 「そんな…俺がかっこいいだなんて…」なんて呟いては、しどろもどろになっていると熱っぽい視線で見下ろしてくる律仁さんにドキドキする。 隙あらば二人きりになった途端、場所を問わずに迫ってくる律仁さんは渉太の心臓にホントに悪い。 律仁さんは「吉澤さんが来るまでさっきの続きでもする?」なんて囁いてきては完全に口付けモードに入っている。 ……したいけど。 今じゃない……。 また誰か入ってきたら……。 でも顔を背けちゃったら律仁さんは傷ついちゃうだろうか……。 悶々と考えながらも目をキツく瞑っていると、律仁さんの背後から咳払いが聞こえてきた。それが誰のものなのかは明確で、律仁さんは「帰りまでおわずけだね」とガッカリした表情をしては、離れていく。 律仁さんが遮っていた視界が開かれると、吉澤さんが腕を組んで部屋の入口に立っていた。 「おい、そこのバカップル着替え終わったんなら、さっさと帰るぞ」 「はいはい。行こうか、渉太」 物凄く恥ずかしい所を見られた気がして、渉太の顔が真っ赤になっているのを他所に平然と吉澤さんが開けた扉を出ていく律仁さん。渉太は少しご立腹気味の吉澤さんを小声で謝りながら後に続いた。

ともだちにシェアしよう!