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先輩は俺が「律仁さんのことを好きじゃない」なんて言っていた嘘を見抜いてくれていた。そんな先輩が人の気持ちに鈍感なんて思わない。
「そんなことはないです。先輩は俺の律仁さんへの気持ちに気づいてくれました」
だから、先輩にも胸に突っかかっていることがあるなら向き合ってほしくて……。
「あれは、たまたまそう感じただけだよ」
「でも、律仁さんとは喧嘩するほどちゃんと向き合って居られてるじゃないですか……」
喧嘩で物が飛んでくるのはどうかと思うが、律仁さんと真剣に向き合っている先輩との二人の間には確かに絆が感じられていた。
「まぁーな……。人には合う合わないがあるから。それよりも渉太は、ちゃんと友達も大事にするんだぞ?渉太は人の痛みが分かる優しい奴なんだからさ」
自分のことなんかより、いつもの「渉太は〜」と言って、俺を気にかけてくれる先輩。
ただ、俺を気にかけてくれているようで先輩自身の気持ちを誤魔化されたような気がして渉太はモヤモヤしていた。
もしかしたら大樹先輩と藤咲の間はそう簡単な話ではないのかもしれないけど、昔仲良かった友達を合う合わないで片付けしまっていいのだろうか。
正直、部活で独りだった俺に歩み寄ってくれた先輩がそんなこと言って欲しくなかった。
藤咲だってきっと、ずっと孤独でいたい訳じゃない気がする。先輩に拳を軽く当てられた右肩の衝撃が重い一撃のように感じた。
「まーでも今日は遠くから藤咲の成長を見守るような気持ちで観てるよ」
一息ついてから何処か諦めたようにそう言った先輩だけど、浮かない顔をしていたのが気掛かりで何処か先輩らしくない。
大樹先輩と藤咲との間に何があったのかなんて解らないし、とても軽々しく聞けることでもない気がする。だけど、自分はちゃんと避けられてでも藤咲と過去と向き合わなきゃいけない。腫れ物に触るみたいに遠ざけるんじゃなくて藤咲の痛みも理解したかった。
「先輩、俺はやっぱりちゃんと逃げずに向き合いたいです。正直、俺、藤咲くんが苦手です。でも、初めて惹かれた友達だから尚更、うやむやにしたままではいたくないです」
渉太は前を見据えて、決意の意味で強く言い放った。すると先輩は、背中を丸めて小さく「そうか、渉太いい意味で変わったな」と呟く姿は弱々しかった。
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