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夜の遊園地

藤咲が向かった方向から辿り着いた場所は、施設内に融合されている遊園地だった。 日が落ちて辺りは真っ黒の中、電飾で輝くアトラクションの遊具達。 テレビドラマなんかでよく目にすることはあるけど、夜の遊園地なんて初めて来たかもしれない。 特にメリーゴーランドなんてクルクルとゆっくり回る木馬達が凄くロマンティックで思わずうっとりしてしまう。 いや、そうじゃない……。 俺は藤咲を探しに来たのであって、遊園地に遊びに来たわけじゃない。 外から見えた観覧車に吸い寄せられるように遊園地に行き着いたわけだが、果たしてこんな広い敷地内に藤咲が居るか、当てずっぽうな勘だった。 夜だからか、家族連れよりカップルが断然多い。当人たちは気にしていないのだろうけど、一人で歩いているとどんなにロマンティックな雰囲気があっても冷静になるのか、腕を組んでラブラブしながら歩いている カップルを見ると何だかむず痒くて恥ずかしさを覚える。 自分も律仁さんと来ていたらこんな、彼氏に甘えて腕にしがみつく彼女のようになっていたのだろうかと思うと顔から火が出そうになった。 当てもなくただひたすらに藤咲を探していると唐突に水辺から軽快なクラッシック音楽とともに水が吹き上がってきて渉太を驚かせては自然と足が止まる。 赤や青、緑の照明に照らされながら左右に揺れたり様々な形を変えて動く噴水が綺麗で時間が限られているにも関わらず見入ってしまった。 十分程鑑賞し終えた後、腕時計を見遣ると既に十八時を過ぎていた。律のコンサートが始まっている。寄り道をしている場合じゃないと、気を改めて前方へ向いた時、数メートル先に黒いコートの正しく自分が探していた人物が噴水の余韻に浸るように呆然と立っていた。

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