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「デビューしたての頃に貰った、ある男の子のファンレターの言葉でね、中学生の男の子からだったんだけど凄い自分のこと分析してくれててさ、『律さんは俺の憧れです。ずっと格好良い律さんでいて下さい』って書かれていた事があってね、今でも心に残ってるんだよね」
律は思いを馳せるように、右胸を抑えていた。会場の雰囲気、律の言葉でみんなが惹き込まれていく。律のデビューしたてにファンレターを送った中学生の男の子と聞いてまさか……と思って恥ずかしくなった。自意識過剰に思うのは良くないけど、律仁さん自身も俺の手紙は特別だなんて言ってくれていたので間違えでは無いような気がして、公の場で何だかむず痒い。
「当時は色々あって、ソロで続けていくことに悩んだり、辛いこともあったけど、みんなの言葉に助けられたこと何度もあります。だから今日の光景を見て、改めて本当にやってきて良かったなーって実感してます。
僕もみんなに支えられてるから、僕も少しでも応援してくれるみんなの生きる糧にしてもらいたくて今日まで活動続けてきました。ホントにありがとう。みんながあっての僕だから、これからも応援よろしくお願い致します」
ステージ上の律が深々と頭を下げると客席から拍手が湧き上がってきた。中には「ありがとー」だとか「大好き」だとか律がこんなにも沢山の人から愛されているのだと実感する。程なくして拍手が収まると、律はゆっくりと顔を上げ、マイクを持ち直した。
「最後の曲は僕とファンの皆さんとの大切な曲です。そして、僕自身も大好きな曲です」
律がファンとの大切だという曲。それが何なのか渉太も当然分かっていた。渉太自身も大好きで苦くもある、思い出が詰まったデビュー曲。
すると、律がステージ上の後ろを手のひらで目線を誘導してくると、階段を上がった先のグランドピアノの傍に藤咲が立っていた。
律のコンサートだからか少しキラキラとスパンコールのついた黒いジャケットに身を包み、姿勢良く一礼をしては、すぐさまピアノ椅子に座る。
「そんな特別な曲なので、今日はピアニストの藤咲尚弥くんが来てくれてます。ピアノのメロディに乗せて歌います。みんなの大切な人を想って聴いてください」
曲名を静かに言葉にすると同時に照明が真っ暗になって、会場が歓声に包まれると一瞬にして静寂に包まれる。
スポットライトが律と藤咲に当てられると一呼吸置いたあと伴奏が始まった。
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