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「様子見てたって……来てたなら声掛けて下さいっ」 「恋人の可愛い姿は黙って見てたくなるもんじゃん?お陰様で大分幸せ分けてもらえたよ」 先程ステージ上で輝きを放っていたのが幻だったかのように、オーラを消して自分を揶揄うような悪戯な笑みを浮かべる彼。その表情でさえ愛おしく想うほど、そのホットサンドと比べ物にならないくらい会いたかった人。 「でもここのサンド美味しいでしょ?渉太に気に入ってもらえたみたいで良かったよ」 「はい、前に食べた時はそんな気分じゃなかったから……凄く美味しいです」 律仁の視線が気になり、「どうぞ」と半分お皿ごと差し出すと「いいよ、俺も頼むから。渉太見てたらお腹減ってきちゃった」と肩を竦めては手を挙げて、席から叫んでは渉太と同じものを頼んでいた。 「あの、俺、律仁さんに謝らないといけないことがあります」 律仁さんが注文を終え、一段落したところで、渉太は両手を膝に置き、姿勢を伸ばすと身を改め直した。今日の出来事で律仁さんには沢山話さなきゃいけないことがある。 律仁は「何?」と言うように小首を傾げるのを合図に、渉太は話を続ける。 「コンサート……殆ど観れていなくて、唯一観れたのが藤咲くんのとアンコールだけなんです……ごめんなさい」 渉太は深く頭を下げてお詫びをした。 律仁さんに自分の勇姿を見てほしいと言われて、関係者席まで用意してくれていたのにも拘わらず、結局公演の10分の1くらいしか見れていない。本当は最初から見たかったけど、逃げていった藤咲を見放す訳にはいかなかった。 渉太としては、律の一番大好きな曲だけでも、生で聞くことが出来ただけでも充分だったが、律仁さんを見届けると約束をしていただけに、結果約束を破ったことになる。 「そんな重罪犯したみたいに謝らないでよ。尚弥くんを説得してくれてたんでしょ?ちゃんと大樹から伝言預かってたよ。それに、渉太には最後の曲を一番聴いて欲しかったからそれだけでも嬉しかったよ」 律仁さんは怒るどころか、優しく微笑んでくる。律仁さんが俺に聴かせたかった曲と俺が一番聴きたかった曲が合致していたのは素直に嬉しいことだった。 「俺も大好きな曲だけでも聴けて良かったです。藤咲くんの繊細なピアノと律さんの切なくて、優しい歌声が曲の雰囲気に合ってて感動しました。聴きながら律仁さんの曲に対する想いだとか、藤咲くんのこととか律仁さんがとの思い出とか思い出しながら凄く胸がジーンと熱くなって……」 言葉にするだけでも、感極まって涙が溢れてきそうなくらい渉太の心を強く揺さぶるものだった。 「尚弥くんとは話せた?」 こんなことで泣いているんじゃ、それでこそ律仁さんにも泣き虫だと言われかねない。堪えるために言葉を詰まらせていると律仁さんに優しく問われては、静かに頷いた。

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