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「藤咲くんと話して俺が藤咲くんが怖かったのは自分が彼と向き合わず逃げていたからだったんだなって気づいたんです……」 俺が藤咲に『友達になれていたか』と聞いたら、『なれていた』と返してくれた。あの穏やかな表情をしていた藤咲には嘘や偽りなんてないと思う。 「話してみたら彼も彼なりに苦しんでいて……藤咲くんのことをもっと理解したいと思ったら怖いとか言う感情はなくなってました」 あの時間、藤咲の苦しみを聞いて、痛みを知って、あの時の自分がもう少し……とか後悔はあるけど、ちゃんと想いを聞くことができて、最後に藤咲が心からの笑顔を見せてくれた姿を見て長年に渡って心に絡まって鍵のかかっていた鎖が取り除かれたようなそんな気持ちになれたのは間違いなかった。 「藤咲くんのことは好きだったけど、恋人になりたいとかよりも彼の友達でいれてたことの方が嬉しかったんです。藤咲くんに俺は藤咲くんの友達になれてたって言われて気づいたというか……藤咲くんはきっと誰かに助けて欲しいけど、それは俺じゃない。だから俺は俺で前を見なきゃって」 俺は藤咲くんの気持ちを理解出来ても救えることはできない。そっと寄り添ってあげることくらいしかできない。でもそれじゃあきっと彼は何も克服することが出来ないんだろう。 「そっかー。渉太、なんかどんどん男前になってるね」 頬杖をついている、律仁さんの双眸に見つめられる。 「そ、そうですか?そんな、律仁さんの方が男前じゃないですかっ……」 男前だと世間に認められている人に男前なんて言われるのは恐れ多くて、渉太は言われ慣れないことに動揺する。 強く否定をしても、律仁さんは一切動じずに 首をゆっくり左右に振った。 「うんうん。渉太は元から優しかったけど、どこか弱くて放って置けなかったから俺が守らなきゃってなってたけど、いまは、優しさの中にも芯の強さがあって安心して見ていられるよ」 「嫌ですか?」 「嫌じゃないよ。寧ろだんだん格好よくなる彼氏にドキドキしちゃうくらいだよ」 推しの系統が変わって離れて行くファンが居るように、律仁さんの中で自分も変わったと見られた時のマイナスな事を考えてしまい、少しだけ不安を過ぎらせてしまったが、一撃でそんなのを打ち消される。 「言い過ぎですっ……」 「そんなことないよ。先陣切って藤咲くんを説得してくれた渉太は俺の自慢の恋人だよ。ありがとう。俺だけじゃなくて、そうやって人の事を考えられる渉太が好きだよ」 不安を抱いてしまった自分と直球でそれを打ち消してくる律仁さんに羞恥心を覚え、俯く。男前だとか格好良いだとか、数十倍もドキドキさせられているのは俺の方だった。 こういう自分が浮ついてしまう言葉をサラっと言いのけてしまう律仁に狼狽えてながらも内心では凄く喜んでいる自分もいる。 「俺だって、律仁さんは自慢の恋人です…… こんなに俺に行動力を与えてくれているのは律仁さんのおかげです」 自分の為だけだったら、藤咲とここまで向き合うことなんて出来てなかったと思う。律仁さんが居たから、律のコンサートの成功を願っていたから動けた。 律である彼も、彼自身も俺の好きな人だから……。

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