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「いい加減にしてもらえますか?律仁さんは大事な俺の恋人だし、尚弥は俺の唯一の友達です。この間のライブであんな素敵なもの観させてくれて俺感動したんです……なので仲良くしてもえますか。先輩も先輩です。いい加減、尚弥と仲直りしてくださいっ」 渉太が声をいつもより荒らげて訴えると、二人の口論がピタリと収まって、三人の視線が集まる。 こんな高級焼肉店で怒鳴るなんてことは滅多にない。いや、人生で初めてだった。個室で良かったと心底思うが、そんなの正直どうでもよかった。 しーんと静まり返える。一体に俺は間違ったことを言ったのだろうか。律仁さんも尚弥も大樹先輩も俺の中で大切な人達には変わりない。そんな大切な人達に囲まれて、こんな光景は見たくないのが本心だった。 こうやって偶然でも出会えた縁があるのだから……。 静寂の中、最初に割ってきたのは律仁さんだった。渉太自身は至って真剣なのにクスリと笑い出すので「なんで笑ってんですか?」と問いただすと「やっぱり俺の彼氏は最高だなーって」と返ってきて、勢いで怒っていたはずなのに途端に恥ずかしくなった渉太は俯いて耳朶を真っ赤にした。 「渉太って泣いてるか、怒ってるかのどっちかだよね。本当可愛い」 「二人の前でやめてください」 「馬鹿馬鹿しい」と溜息を吐く尚弥の隣で、先輩は目を丸くして暫く唖然としていたが律仁さんの笑いに誘われるように笑うと「お前ら本当に仲良いなー」と場の空気が和んだみたいで、結果オーライだったのだろうかと複雑な気持ちだった。 そんな賑わう中、店員さんがタイミングよく個室に入ってきては、今回のメインである注文したお肉を運んできたので渉太は大人しく座席に着いた。

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