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最初は度々繰り広げられる尚弥と律仁さんの刺のある会話に冷や冷やとしていたが、律仁さんにとって俺の話が地雷なだけで食事を始めたら、二人で音楽の話に花を咲かせていた。
自宅に楽器があったりとか自分で作詞作曲しているくらいだし、律仁さんは心底音楽が大好きなんだと伝わる。藤咲が作曲はできるという事実を話しては律仁さんが「尚弥くんの作った曲、興味あるなー」だとか「今度俺の曲作ってよ」と冗談なのか本気なのかは分からないが半ば楽しそうだった。
俺も俺で大樹先輩と大学や天体の話をしては、律仁さんも興味を向けて話に入ってきたり、藤咲は興味なさげだったり、こんな数人の仲の良いもの同士で集まって会話をしたのは、学生以来の久々な気がして渉太自身も懐かしい感覚で胸が踊った。
駐車場で尚弥と大樹先輩と別れて、律仁さんとの帰り道。車に乗り込んでの律仁さんの第一声が「渉太、今日は大人げないことをしました。すみません」と俺が怒ったことへの謝罪だった。
自分が二人の口論に怒っていたことなど、すっかり忘れていたので一瞬だけ考えてしまったが直ぐに思い出しては、「大丈夫です。それに律仁さんが俺の事になると暴走するの分かっているんで呆れてるくらいです」と少し、皮肉ったように返答すると、「渉太を前にするとやっぱりかっこがつかないなー」と少し顔を赤く染めては困惑しているようだった。
楽しかった余韻に浸る中、都内の俺の自宅までの道のりを走っていく。窓の外を眺めていると微かに映る自分の顔が、浮かれているのを物語っていた。渉太は正面に向き直ると、右隣の運転中の律仁さんに目線を移した。
「律仁さん。今日は楽しかったです。みんなでワイワイするなんて高校生以来だったから、凄く懐かしい気持ちになりました」
「そっか、それは良かった。俺も今日は特に渉太がよく笑っていた気がするから嬉しかったよ」
「俺の転機にはいつも律仁さんが居るような気がします。大学に行こうと思えたのも大樹先輩に告白できたのも、こうやって尚弥と仲直りできたのも、律仁さんに出会えなかったら俺は変われてなかったから、律仁さんは俺にとって原動力になってるんだなーって」
浮ついた気持ちに任せて思いのままの気持ちを話すと律仁さんは「だから大袈裟だよ。渉太自身が全部頑張ったことだって」と微笑んでは照れているのを誤魔化しているように見えたが、「でもきっかけは大事です」とあくまでも律仁さんのお陰だと渉太は言い張る。
「じゃあ、今度は渉太が俺の側にいて原動力になってくれる?」
「もちろんです」
「俺が何処にいても?」
「何処にいても……俺は律仁さんに返したいです」
意味深なその言葉に疑問を抱きながらも、深く頷いた。
「まー俺の一番の原動力は渉太の笑顔だから」
「俺の笑顔って、そんないいもんじゃないですよ?」
「いいもんだよ。好きな人の笑った顔ってどんなものよりも綺麗だって言うじゃん?」
全く聞いた事がないが、確かに律仁さんの格好のついていない無邪気に笑う顔は愛しいさがあるからそういうことなのだろうかと納得する。
「あ、でも、またみんなでワイワイしたいです」
渉太はふと思っては、笑顔でそう返すと、律仁さんも「そーだね、何処か行けたらいいね」と屈託のない笑顔で提案に賛同してくれた。
End.
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