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SS 早坂家は大騒ぎ【 大晦日の特番と律仁さん①】

※本編のすぐ後のお話になります。 年末前の大掛かりな三時間の歌番組の祭典。 毎年大きなコンサートホール会場から観客を何万人も入れて生放送で行われているだけあって、その分出演するアーティストも多い。 もちろん渉太の憧れでもある浅倉律も出演している。 御目当ての九割は律ではあるものの、この時期の渉太が一番楽しみにしている恒例番組のようなものだった。 「綺麗……」  自宅のテレビよりも何倍も大きな画面の中には、青いウエディングドレスのような華やかな衣装を身に纏った女性。長い睫毛に化粧によって瞼や肌が煌めいていて、眩しさが溢れている。日頃、律以外の芸能人には疎い渉太だが思わず彼女の姿に見入ってしまった。 「律仁さん、この雪城レイナ(ゆきしろれいな)さん。凄く綺麗ですね。見た目もだけど歌声も凄く、耳心地がいい……」 渉太は感激のあまり、リビングの後ろにあるアイランドキッチンで食後の珈琲を淹れてくれている律仁さんに声を掛けた。 「ああ、うん。うちの看板歌姫だからね」 律仁さんは微笑みながら両手にマグカップを持ってリビングダイニングへと戻ってくると、ソファの緣を背もたれに座る渉太の目の前にカップが置かれた。 お礼を言いながら、熱さに気をつけてゆっくり口をつけては一息つく。 「実物も綺麗な人そうですよね……こんな詞書いて共感得られるなんて、凄く恋愛に生きた方なんだなーって思います」 彼女が歌う前に歌詞やメロディが十代、二十代特有の恋に悩める人達に向けたような曲で注目を集めていると紹介されていた。彼女の歌声から醸し出す儚さと不安定さが共感を得ているのだろう。  こんな綺麗で素敵な人が看板歌姫で、おまけに不動のアイドルの浅倉律もかかえている事務所なんて、やっぱり凄い。そんな羨望の眼差しで、ソファに腰を掛ける律仁さんを目で追いながら問い掛けると、彼は何処か遠い目をして「どうかな……」と呟いた。

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