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大晦日の特番と律仁さん②
「律仁さん、会ったことないんですか?」
「あるよ。先輩だけど同士のようなもんだったから……。でも綺麗だけど、ただ着飾っているだけの人だった。もちろん歌声は綺麗だし否定するわけじゃないけど、詞とか系統とか……本当の彼女の言葉じゃない気がして聞き苦しくて俺は好かないかな……」
あまり音楽に対して悲観的にならない律仁さんからは珍しい発言。渉太は苦笑を浮かべながら珈琲を飲み、テレビ画面をじっと眺める律仁さんの少し寂しそうな横顔を見逃さなかった。
いつも年上の威厳を見せた大人びた彼が、捨てられた子犬のようなそんな表情をしている。その表情に不安のようなものが過ぎったが、テレビ画面から聴こえてきた甲高い女性の声によって直ぐに意識が逸れた。
『さあさあ、今宵のミュージックパレード。いよいよCMのあとは浅倉律さんが登場です‼』
声につられてテレビ画面を見遣ると番組の司会者である女優さんの愛嬌笑顔の紹介とともに、浅倉律が映し出され、先程の律仁さんの意味深な表情のことは忘れてしまっていた。
キラキラのスワロフスキーが施された黒いジャケットに、肩にはファーを提げて正真正銘のアイドルである律にワクワクする。
オマケに自宅よりも遥かに大きいインチの液晶画面いっぱいに彼が映し出されたかと思えば、しっかりファンへのサービス精神を忘れない。両手を振り、画面の越しのファンに向けてウィンクをしながら投げキッス。
渉太はその律の仕草にキュンっとしては、隣に本人がいるのにもかかわらず、画面に釘付けになり、何度見ても、自分の憧れで大好きな人だと再確認させられた。
そんなCM前の律の姿を堪能し、これからの歌唱を楽しみに待機していると、突如画面が真っ暗になる。
「あ、律仁さん。これからってときにどうして消しちゃうんですか⁉」
リモコンを渉太の二度と手の届かないようにソファへ放り投げると律仁さんは口を尖らせながら右腿に肘をつき、頬杖をついていた。
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