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大晦日の特番と律仁さん③
物凄くつまらなそうに頬を膨らませている。
本人は本気で怒っているのだろうが、盲目フィルターというのは怖いもので、不謹慎にも渉太はそんな恋人の拗ねた顔さえ可愛いらしく思えてしまっていた。
「俺がヤキモチ妬くから」
「ヤキモチって本人じゃないですか.......。それに一緒に見ようって律仁さんが言ってきたくせに……」
渉太は額に手を当てては深く溜息を吐く。
今日の生放送の録画。渉太はアルバイトで見られなかったため、律仁さんが「録画しているから見ようか」と提案してくれたのにも関わらずこの有様。
推しのアイドルが嫉妬してくれるなんて、夢のような話ではあるが、律仁さんと交際を始めて十ヶ月程経った今は、嬉しさを通り越して呆れの方が勝っていた。
百歩譲って、彼の友人でもある、過去に想いを寄せていた大樹先輩の話を持ち出すと、優しく聞いてくれるものの表情と言葉が一致してない程、あからさまに怪訝な顔をするのは理解ができる。
しかし、自らでもあるアイドルの自分にも嫉妬するのが渉太には未だに解かせなかった。
「そうだけど、テレビに夢中な渉太見ていて気が変わった」
「そんな……今日はバイトで見られなかったから帰ってきたら一人で録画みるのを楽しみにしていたんですけど……」
本当は今日は律仁さんの家に寄る予定ではなかった。……というより生放送だから会えないとさえ思っていたのに、終業間近にバイト先に現れた時は喉から心臓が飛び出すほど驚いたのがほんの一時間ほど前。
相変わらず、この人には身バレの危機感というものがないらしい……。挙句の果てに、同じアルバイトの花井さんに「彼氏が迎えに来てるよ」と後光の差したような暖かい目で茶化されて恥ずかしい思いをした。
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