248 / 295
大晦日の特番と律仁さん⑤
渉太は動揺を隠すように、テーブルの上に置いてあったマグカップを差し出すと、「はいはい」と律仁さんは軽く渉太の頬に触れるだけのキスをしてカップを受け取った。
とりあえずのドキドキは回避することが出来たことに安堵する。
一般的な恋人達は難なくお互いが思うままに、身体で愛し合うことが出来ているんだと思うと尊敬したくなるほどだった。
「年末年始、ごめんね。本当は渉太と一緒に居たかったんだけど事務所の年越しライブとテレビの仕事が三日まであってさ……クリスマスも会えなかったのに……ごめんね」
恋人としては少しの寂しさがあるものの、年末年始やクリスマスは業界人にとっては最も多忙な時期だということは理解しているので、自分はファンとしてテレビの中の律を見て応援できるだけでも充分だった。
「大丈夫です。俺、年末年始はずっと帰省しようと思ってるんで……配信見て応援しますね」
それに、年越しライブは現地に来れない人達の為にも有料ではあるが、ネットでの配信ライブも行う予定で、翔太は実家のコタツで温々としながら観るつもりだった。
決してやせ我慢ではない。自分が凹んでいる所を見せ、律仁さんに気負いしてほしくなくて、笑顔を向けてそう答えると律仁さん自身が不服であったのか
「渉太だけ俺の姿見れるなんてズルいなー」と頬を膨らませていた。
「お仕事なんだから仕方がないじゃないですか。その代わり、俺だけじゃなくて沢山の人を笑顔にしてきてくださいね」
「渉太、物分かり良すぎでしょ……。まぁ、俺はそんな控え目な渉太も含めて好きになったんだけどね。次に会えるのは年明けかな……」
「そうですね……律仁さんの活躍期待してます」
熱を帯びた瞳に改めて「好き」だと言われると、照れが生じて思わず顔を俯ける。ふわっと、甘い香りが立ち込めたかと思えば、逞しい腕に脇を持ち上げられ、そのままソファに促された。律仁さんの脚の間に座る体勢になり、背後から抱すくめられ、密着する身体にドキドキする。
ともだちにシェアしよう!