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大晦日の特番と律仁さん⑥

俺の肩に預けられる律仁さんの顎。耳元から聞こえる僅かな息遣いと低くて温かみのある声。普段は意地悪い一面もあるけど俺に甘えてくる律仁さんが可愛いく、愛おしさが増す。律仁さんと付き合うようになってから全てが夢のようで幸福の絶頂にいるようだった。 「こんなに優しい渉太が育つくらいだから、渉太は両親に充分な愛情をもらって育てられたんだろうなー」 「充分な愛情を貰っていたかは分からないですけど、俺が不登校になった時でも無理に行けだとか言わずに優しく受け止めて、支えてくれた両親には感謝しかないです」  学校に通えなくなってから、両親には迷惑ばかりかけてきた。トラウマから引きこもって部屋から出るのも億劫だった頃、両親が何度も二人で俺の事で話し合って口論している姿を見たりもした。  だから、いつまでも塞ぎ込んでいる姿を見せたくなくて、恩返しのつもりで受けた東京の大学に合格した時は、泣いて喜んでくれたことは今でも忘れずに胸に焼き付いている。 「渉太の両親に会ってみたいな……。挨拶もしたいし。あと、渉太が俺のファンになってくれたキッカケを与えてくれたお姉さんにも感謝しなきゃね……」  律仁さんから自分の家族に会いたいなんて言葉が聞けるとは思わなかった。嬉しい反面、家族を紹介すると言うことは、律仁さんが芸能人であることはもちろん、未だに明かしていない自分の性的思考を話さなければならなくなる。 俺だって律仁さんとずっと一緒にいられたらと思っているから考えていなかった訳では無いが、親に紹介するなんてまだ先の話だと思っていただけに、律仁さんの問いかけに賛同できなかった。 「そうですね……。いずれは……律仁さんとの事を両親に話したいって思っています。……でも」 俺の恋人は同性で、オマケに芸能人だと知ったら両親はどんな反応をみせるだろうか。 友達だとか知り合い程度なのであれば、驚かれた程度で終わったかもしれないが恋人だ……。幾ら温厚な父母でも反対されるかもしれない、非難されるかもしれない。 じゃなかったとしても、きっと一般的に就職して結婚して家族を作る幸せを息子に望んでいるに違いない両親はどう思うだろうか。  孫の顔を見せられない俺を親不孝者だと思うだろうか。

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