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大晦日の特番と律仁さん⑲※※

お風呂から上がり、時折律仁さんに悪戯をされながらもお互いの身体の水滴をバスタオルで拭う。全裸のまま部屋へと移動をするのは、想像したら何だか滑稽で、情けで下着を身に付けた。ふと、隣に目をやると律仁さんも下だけは身に付けていてホッとした。 バスタオルで髪の毛を乾かす姿でさえ、やけに色気フィルターが掛かっていてドキッとさせられる。先程は、恥ずかしさから目を逸らすばかりでいたが、改めて見ると律仁さんの締まりのある身体は、男であれば憧れる姿だと思わせる。 一方で洗面台の鏡に映る自分の上半身の弛んだ身体を目の当たりにして、上着を身に付けていないことに恥じらいを覚えた。律仁さんはそんな自分の身体がいいというが、俺も一応男だし、律仁さんの前では格好よくいたいと思う気持ちはある。 律仁さんのようにジムに行くには敷居が高いし、お金もないから家のベッド下に仕舞ってある筋トレグッズでも引っ張りだして明日から始めようか……。なんて自分のシャツを手に取り、考えていると律仁さんに「はい、これ着て?少しとはいえ寒いでしょ?」と大きめの長袖シャツを手渡された。 お風呂に入る直前まで律仁さんが着ていたシャツ。自分のがあるのにどうして律仁さんの·····と疑問に思ったが、渉太はなんの気もなしにお礼を言って受け取ると、頭からシャツを被った。 やっぱり律仁さんのものは微かにいい匂いがして渉太の心を燻らせる。身長が七センチ差はある故に、丈のギリギリなワンピースのようになっていたが、嬉しさの方が勝り、気にならなかった。 そんな彼の服に心を躍らせていると、律仁さんが背後からドライヤーを手にして現れると、渉太を洗面台の鏡の前に正面を向くように誘導された。 飼い主にお世話をしてもらうペットのように、俺の髪の毛を大きく優しい手で乾かしてくる。多少の申し訳なさがあったが、凄く気持ちがいい。時々鏡の中の律仁さんを眺めては、彼の腹筋や筋張った腕を眺めてうっとりとしていた。あまりの心地よさと安心感で瞼が落ちそうになりながら彼の眺めているとドライヤーが止まり、頭を撫でられる。 今度は俺が律仁さんの髪の毛を……と思って彼の右手に握るドライヤーの柄を掴もうと手を伸ばすと、ヒョイッと頭上に持ち上げられてしまった。 律仁さんに「俺はいいから、渉太は先に寝室に行って体力温残しておいて。でも、寝ちゃダメだからね?」と耳元で囁かれ、この後の行為を仄めかされて耳朶を真っ赤にしながらも、脱衣所を出ると二つ先の寝室のある扉を開けた。 部屋に入りベッドサイドのランプだけ灯りをつけると、相変わらず部屋中を囲う、本がずらりと並んでいる本棚に圧倒された。毎回聞こうと思って忘れていたが、何となく背表紙を眺めていると聞き覚えのあるタイトルが多くて、それはどれも律仁さんが出演していたドラマの原作本だったり関連のありそうなものだった。 ということは、仕事用の本棚なのだろうか。 今度聞いてみよう·····。 渉太は部屋の中心にある大きなダブルベッドの足元側の縁に腰をかけると倒れるように大の字で布団に倒れ込む。背中を丸めて足をベッドに上げて横に寝転がるとさっきは本人の前で堂々と嗅ぐことができなかったけど、本人が居ないのをいいことに襟口に顔を埋める。お風呂場での余韻が残っているのか、律仁さんの匂いだけなのに再びドキドキしてきて交感神経が優位に刺激される。 これから俺はお風呂でしたみたいに律仁さんと……なんて想像していると 足元の方から「しょーた」と溜息交じりの声が聞こえてきた。 「り、律仁さん⁉」 渉太は慌てて襟口から顔を出して、起き上がろうとしたところで、 脱衣所で見た下着一枚からスラックスを履いた上裸の律仁さんがベッドに乗り出してきては、渉太が寝転がったまま布団に手をついて顔を覗き込まれる。 「部屋に入って、渉太のそのアングルは反則でしょ」 「そ、そのアングルって……」 「お尻丸見えだったけど?」 厳密には下着を身に付けているから生尻ではないが、律仁さんのシャツに夢中でそんなことは考えていなかった。渉太は羞恥心からシャツの裾を伸ばして下着を隠す。

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