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⠀慌ただしい御正月②

とは言え、就職活動をしない訳にはいかないので、とりあえず安定した職に就けるようにとホテル関連だとか旅行関連の仕事に目をつけてはいるが·····。 渉太の父親は市役所勤めの公務員で、姉は看護師。そして母親の結婚する前の職業は幼稚園の先生。 オマケに彼氏が芸能人だなんて、尚更自分の将来が定まらずにフラフラしている訳に行かない……。 律仁さんの事だって話さなきゃならないのに、いざとなると尻込みをしてしまうのが現状だった。 「うーん、ぼちぼちかな……」 「まだ時間はあるんだから焦らなくても大丈夫よ。ゆっくり探しなさい」 お盆に乗せられたお雑煮を目の前に出されて、母親が優しく微笑んでくる。 将来への僅かな不安を抱えている中で母親の包容力に安心しながらも、箸を持ち、お雑煮のお餅を頬張った。  自分は何がしたいんだろうかと、テレビ画面をぼんやりと眺めながら、慣れ親しんできた味噌味ベースのお雑煮を食べていると、キッチンから「そういえば、渉太?」と母親に遠巻きで声を掛けられた。 「今朝、あなた宛てに荷物届いていたわよ」  渉太は身体を仰け反らせてキッチンにいる母親の様子を覗く。何やら大きい発泡スチロールの箱を取り出してくるとダイニングテーブルの上に上げていた。 「わざわざうちに渉太宛の荷物がくるわけないだろ、何か間違いじゃないのか?」と問う父親の一方で「だから渉太に聞いてんるじゃない?」と言っていることから、両親はその荷物に訝しんでいるようだった。 渉太自身も当てがないだけに不信感を覚える。俺宛で実家に荷物を届けてくれるような友達はいるわけがない。実家を知っている人間と言って、強いていうなら尚弥くらいではあるものの、彼が送ってくるはずもなかった。  渉太は名残惜しい炬燵から抜け出すと、母親のいる居間へと向かった。 「麻倉律仁って人からなんだけど、渉太の知り合い?」 「え……?」 母親が問うと同時に、箱の蓋の伝票の送り主を見て渉太は一驚した。母の言った通り、間違いなく、麻倉律仁と書かれている名前。住所は流石に自宅ではなく事務所の住所が記されていることから、本人で間違いないのだろう。 確かに彼に実家の住所を教えた記憶はあるけども……。 「し、知り合いというか……何入っていたの?」 「まだ開けてないわ」 梱包状況から冷蔵品で間違いないと思うが、それなりの大きさはある。律仁さんのことだからとんでもないものを送ってきそうで、嫌な予感がした。  巻かれている透明テープをはがし、蓋を開けると同時に母親が「あら、やだっ」と歓喜をあげた。中に入っていたのは、ズワイカニと毛ガニが箱一杯に敷き詰められていた。

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