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慌ただしい御正月⑥

「ほら、何年か前に金沢に結婚記念日で旅行いったじゃない?あなたはお皿に興味なさそうに頷いていたけど、記念に買ったのよ。この日の為に買っておいて良かったわ。こんな素敵な方に普通のお皿なんて失礼でしょ?」  男の人は記念日とか自分の興味のあるもの以外には疎いとよく聞くが、決して両親は仲が悪いわけじゃない。普段ならば叱る所を何だかんだで「まぁ、確かにそうだな」と母親の云い分に納得している父親は寛大なんだと思う。 「そんな……唐突に来たのは僕の方ですし、気を遣わなくて大丈夫ですよ。でも、ありがとうございます」  母親に向かって笑顔で御礼を述べる律仁さんの爽やか笑顔に「あら、やだ……」なんて口元を隠しては照れているようだった。  隣にいる渉太ですらドキドキしてしまう。 「でも嬉しいわ。渉太がお友達連れてくることなんて滅多になかったの。だからちょっと向こうの生活が心配だったっていうの?こんな素敵なお友達がいるなら母さん安心ね」 「お前は渉太に過保護になりすぎだ。これでも二十歳を超えた大人なんだぞ。楽しくやっているに決まってんだろ」  フォークを使わずに人差し指と親指で饅頭を掴んで頬張る父親。 「そうだけどねぇ……」  そんな父親の横で渋い表情をしている母親は自分のことが心底心配だったのだと分かる。  普段、帰省しても軽く近況を聞かれる程度で、渉太が適当に濁すと深く掘り下げてくることはなかった。渉太を気遣ってか遠慮して触れてこなかっただけで、これほどまでに両親が心配しているとは思わなかった。  きっと両親にそうさせたのは、自分の高校生の時の不登校が原因だと自覚しているから尚更だった。 「ごめんなさいね。お客さんの前で塩らしくしちゃって」  母親は眉を下げると、苦笑を浮かべる。 「いいえ、渉太君はご両親に愛されているのが凄く伝わってきます。ご両親が愛情いっぱいに支えてくれていたから渉太君はこんな優しい子になったんですね」 「そんな……」  優しいかどうかは自分じゃよく分からない。 単純に優柔不断なだけかもしれないし……。 しかし、家族のことが大好きである渉太は両親のことを褒められるのは自分の事のように嬉しい。 父親と母親には言葉に表せないほどに感謝をしているから……。

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