273 / 295

慌ただしい御正月⑦

渉太は気恥ずかしさから、両腿に両掌を挟めて肩を竦めると母親と律仁さんのやりとりに耳を傾ける。すると、律仁さんの言葉で両親も照れてしまったのか、父親は大きく咳払いをして、母親は照れ笑いをしていた。 「嫌だわ。こんな格好いい方に言われるなんて照れるわね」   父親の肩を強く叩きながら終始母親は笑う。と思えば眉を下げては何やら心配そうな表情を浮かべる。 「でも、この子とっても優しい子でしょ?この子に姉がいるんだけど姉の我が強いものだから、その影響を受けてか、自分よりも人のことを優先することが多いの。自己犠牲的って言うのかしら?誰かが損するくらいなら自分は得をしなくていいって……」 「分かります。渉太君は優しすぎるくらいで、俺から見てても心配になるくらいです」  渉太が遠慮するたびに律仁さんに何度も「俺の彼氏なんだから」「俺のことじゃなくて渉太の気持ちを優先して」と言われ続けていたから自覚症状はある。 それが、母親にも見抜かれていたことには驚いたが、当たり前といえば当たり前なのか……。  付き合う前だとか始めの頃よりは、律仁さんのことが好きだ、自分が律仁さんの恋人だ、と胸を張れるようにはなったと思う……。 否、思いたい。 多少の後ろめたさはあるが、アイドルの律も普段の意地悪だけど何処か可愛いところのある彼の両方好きになって如何しても諦めきれなくて、覚悟を決めて掴んだ幸せだから悲観的になるのは違う気がして……。 これでも少しは、自分の気持ちに正直に生きようと頑張ってる方なんだけどな·····。と思いながら初対面にも関わらず俺の話で盛り上がっている律仁さんを横目に苦笑した。 「それにしても、君の顔何処かで見たことあるような気がするんだよな……」  ふと、栗饅頭をいつの間にか平らげた父親が律仁さんの顔をじっと眺めて問うてくる。もしかして気づかれてしまっただろうか。 律仁さんの人気の主な年代は若者であるものの、テレビには頻繁に出演している。 今だってテレビはついたままだし……彼の職業がバレてしまうのも時間の問題な気がした。

ともだちにシェアしよう!