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慌ただしい御正月⑨

「じゃあ、麻倉さんは普段何されている方なのかしら?二十六歳ともなればどちらかにお勤めなんでしょ?」  渉太との関係性が分かったところで、自然と話の矛先が向けられるのは律仁さん自身の事。あまり深追いをして来ないことを願っていたが、更に踏み込んだことを問うてくる母親に渉太は冷や汗をかいていた。  大丈夫だと言っていたものの律仁さんはどこまで話すつもりなのだろうか……。  いずれ話さなければならない事柄のひとつだと分かっていても、今ここで目の前の人が芸能人だと知ったら両親はどう思うのか。  悪い印象を与えなかったとしても、律仁さんも律仁さんで俺と知り合った時も、芸能人だからと特別視をされるのを警戒していた。だから、あくまで一般人として隠し通したいのではないかとすら思えてくる。 「か、母さん。あんまりズカズカ聞くのは良くないよ……。母さんの心配するような人じゃないし、律仁さんもいい人だから……」   きっと、今まで友達が居なかった俺を心配してのことだと分かっていても、渉太は我慢できずに、これ以上律仁さんの内情に踏み込まれないように横やりを入れる。 「だからじゃない。渉太がどこの誰とどんな人とお友達なのかくらい親としては知っておきたいものよねぇ?お父さん」 「ああ、まあ……。お前が言うならそうだな」  しかし、そんな渉太の必死の弁解も虚しく、さっきの「過保護すぎだ」の威勢はどこへやらと、母親の圧に負けて父親も同意を示してきたので、避けよう避けられない状況になってしまった。 不安が拭えない中で、律仁さんの方を見遣ると彼は大きく息を吐いては、渉太の心配を案ずるように左手を一瞬だけテーブルの下で握ってきた。 「あの……。渉太君のお母様、お父様。非常に恐縮ではあるんですが、僕、普段はテレビで芸能活動をしているのですが……。浅倉律ってご存じですか?」  興味津々に律仁さんに注目している両親を前に、息を整えた律仁さんは落ち着いた様子で二人に問う。本当のことを告げようとしている彼に驚いたが、いずれ俺と生涯を共にしたいと口にしていた彼の覚悟のようなものも感じた。 認知されていようがいまいが、自ら芸能人であると話すことは安易なことではない。 自身の両親に限って、そんなことはないと信じたいが、一歩間違えればトラブルに巻き込まれかねないことは彼自身も分かっている筈だろうからだ。 両親はテレビと聞いて、目を丸くしながらお互いの顔を見合わせていた。 母に至っては「まぁ‼」と口元を手で隠して驚いていたものの、親世代にはあまりピンと来ていないのか「ごめんなさい。存じあげないわ。あなた知ってる?」と父親に問い掛けたが父も「知らんな……」と首を振っていた。

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