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慌ただしい御正月⑪
これはただ事ではなくなってきた気がする……。
「まったく母さんと言ったら……麻倉さんといったかね。君、俳優もやっているって言ってたけど、和田功には会ったことあるのか?」
慌てた母を眺めては半ば呆れたようにため息を吐いていた父親が唐突に問うてきた。
「ああ、はい。つい最近。和田さんとバディ組んでドラマに出演してましたので……」
父に問われて一瞬だけ身体をビクリと震わせていた律仁さん。
緊張しているのだろうか。
本人じゃない、渉太でさえも両親の反応に緊張しているくらいなので、律仁さん自身なら俺の何倍も緊張していて当然のこと。
それでも、父親の問いに笑顔で返す律仁さん。
「ああ、もしかしてあの若い兄ちゃんか。ちょっと反抗的な若造役の」
「はい、そうです。和田さん役の武東に反抗的で、足を引っ張りながらも成長してたあの若造です」
律仁さんの刑事ドラマといえば、彼がアイドルであると知って決別を言い渡してから、最終回をまともに見る事が出来なかったことを思い出す作品。当時の苦しさを思い出すほどに、渉太にとって記憶に刻まれるドラマだった。
そんなドラマの話に珍しく父親が食いついてきている。
普段テレビと言えば我が家ではニュース番組中心。
テレビの主導権を握っている父親がドラマなど見ている姿など滅多にみない。
ふと、渉太が幼い頃、はぐれなんちゃらという長年続いていた刑事ドラマを見ていたことを思い出した。
それでこそ、若かりしき和田功さんが出ていたドラマ。
ⅮⅤⅮも持っていて、日曜日の夕方、恒例のように見ていた記憶があることから、父親が和田功のファンなのではないかと思ったほどだった。
それが功を奏してなのか、父親は自らドラマの話題を律仁さんに振る。
「あのドラマは良かった。ⅮⅤⅮを買おうか迷ってるくらいだ。君の演技もなかなかだったよ。最初は顔だけの見縊ってたんだがな」と本人を目の前に上から目線の父親に渉太は冷や汗をかいた。
そんな父の発言にも律仁さんは「自分は和田さんにはまだまだ劣りますが、こうしてお褒めの言葉を頂けて光栄です」と深々と頭を下げて低姿勢な姿をみせる。
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