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強引な姉と彼女の事情と②
昔から女性の嫉妬心ほど恐ろしいものはないというのは姉の身をもって感じている。平和主義である渉太は、自分が引けば全て丸く収まるのであれば、自分の感情よりその場の雰囲気を優先するようになったのはここからきているのかもしれない。
「へぇ、いいなー。私も東京の大学行ってたら芸能人と知り合えてたかなー」
「ははは、どうだろうね。渉太のお姉さんは看護師さんなんだってね?凄いな……仕事大変でしょ?」
渉太とは正反対で自分ですら身を引いてしまう程の我の強い姉を相手にも物怖じせずに運転しながら返事をしている律仁さんに感心する。
けれど、何か粗相が起きるのではないかと後部座席から見ていて冷や汗ものだった。
「あの、梨渉って呼んでもらえますか?」
「え……?」
律仁さんが問い掛けているにもかかわらず、そっちのけで自分の名前呼びを提案してくる姉に驚愕したのか、目を見開いた彼がバックミラー越しに渉太と目を合わせてきた。
ああ……なんだかすごい胸騒ぎがする。
別に姉が悪いという訳ではないし、自分に正直である姉を羨ましく思う渉太であったが、凄く律仁さんに申し訳ない気持ちになった。
「私、律のファンなんです」
「うん、知ってるよ。渉太から聞いてる。俺が二人組でやってた時から応援してくれてたんだってね?ありがとうね」
やはりファンへの対応が慣れているのだろう。一瞬だけ驚いた表情をしていた律仁さんは、すぐさま目を細めて笑顔で姉に答える。
姉のことは、詳しく彼に話してはいないが、少しの情報も逃さずに相手の喜びそうな話を引き出し、臨機応変に広げていく。
あくまで話の主導が相手にあることから、初対面の人だと尚更、言葉に詰まる渉太とは違う、律仁さんの話術には尊敬する。
カッコいいだけじゃなくて、色んな引き出しを持っている律仁さんは、俺の永遠の憧れの存在なのだと再確認させられる。
「そうなんです。渉太よりもずっと先に、わたしがファンになったんですよ‼」
胸元に手を当てて運転席に向かって熱弁する姉の僅かなマウントに胸を抉られた気持ちになりながらも、珍しく明らかな苦笑いを浮かべている律仁さん。
「ははは、そっか。それは嬉しいな。でも後にも先にも俺のこと好きで応援してくれるのは嬉しいし、感謝してるよ。応援してくれる子あっての俺だからさっ」
律仁さんは姉の発言の真意を詠んでいるのだろう。応援してくれる古参の姉に感謝しながら、渉太のことを気遣ってくれている。
そんな怯んだ渉太の心を和ませてくれる律仁さんに心を救われながらも、ここまで来て気遣ってくれていることに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。しかし、どうすることもできずに渉太は両ひざの上で拳を握って俯いていることしかできなかった。
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