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強引な姉と彼女の事情と③

「でも、折角なんで渉太のお姉さんじゃなくて梨渉って呼んでほしいです」 渉太がそんな面持ちであることなど知らずに、梨渉はぐいぐいと律仁さんに食い気味になる。 「姉ちゃん、あんまり律仁さんを困らせたら……」 「私が律と喋ってるんだから邪魔しないで‼」 推しと出会えたことへの興奮がそうさせるのか、このままでは梨渉が暴走するばかりだ。恋人として彼を守る役割がある以上、いくら家族とはいえ、引いてばかりもいられない。 渉太は、なけなしの勇気を振り絞って姉に自重を促すように注意をしてものの、目尻を釣り上げて蛇のように睨まれてしまい、その威圧さに渉太はあっさりと負けてしまった。 背中を丸めて「すみません……」と謝る自分が情けない。 「梨渉ちゃんって少し気が強いのかな?弟には優しくしなきゃダメだよ?そんな顔してたら折角の可愛い顔が台無しになる」 「あ、ごめんなさい……。つい……渉太に強く当たっちゃって……。渉太もごめんね」  推しの力は偉大というべきなのか、姉は律仁さんに言われると素直に頭を下げて謝っていた。 「でも、分かった。確かに渉太のお姉さんは失礼だったよね。流石に呼び捨ては会ったばかりだしハードルが高いから……。梨渉ちゃんでいい?」 「はい、ちゃん付けで大丈夫です。律に名前を呼んでもらえるなら……」 「じゃあ、梨渉ちゃんも今は俺のこと、律じゃなくて律仁って呼んでくれると助かるかなー」 「はい、律仁さん」 完全に普段の律仁さんではない、律用の表情ではあるが、神対応かってくらい、律仁さんの梨渉への応対が百点満点すぎて渉太も見惚れる程だった。 当然、梨渉も目の色を星でも散りばめたようにキラキラさせ、完全に律仁さんをロックオンしている。 律仁さんと家族がこうして会うことは嬉しい事だか、梨渉を見てなんだか良からぬ方向に向かいそうで漠然とした不安が渉太の中に過ぎっていた。 目的のお寿司は店頭で予約し、清算を済ませると準備ができるまで時間がかかると言うので暇つぶしがてら神社へ参拝することになった。 流石に年始は人の数も普段より多い。気づかれて注目されるのを警戒して律仁さんはマスクに眼鏡、帽子と完全フル装備で参道を歩く。 その隣には、当然恋人の渉太……ではなく姉が、あろうこと彼の腕にしがみついていた。 別に必ずしも律仁さんの隣は自身だと思っているわけではない。 しかし、無意識的に律仁さんの隣は自分だと思っているせいか彼を奪われたような……。嫉妬心のような感情が湧いてきて、一人悶々としていた。 けれど姉に逆らうものならまた、鬼の形相で睨まれるのだろう。それに表面上では俺と律仁さんは友人関係なのだから、執拗以上に引き剥がすのも違う気がした。  だけど、この状況は律的にまずいよな……。  完全フル装備とはいえ、いつどこで誰が見ているかも分からない。律仁さんが周りに正体を気づかれようものなら梨渉との状況は誤解とはいえ、大スクープになりかねない。 「梨渉ちゃん、腕は勘弁してほしいかな……」  普段、渉太を前にしたら警戒心が緩くなる律仁さんも、危機感を覚えたのか、眉を下げて掴まれている左腕を不自然に浮かせると、姉との距離をとろうとしているのが分かった。

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