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強引な姉と彼女の事情と④

「ごめんなさいっ。だって律仁さんと一緒に歩けることなんて滅多にないから嬉しくて」  マスクで分からないがそんな苦笑いを浮かべているであろう、律仁さんを余所に、終始浮かれ気味の姉。 律仁さんに指摘されて、大人しく腕から離れたものの向いているのは律仁さんの方ばかりで、そんな姉の隣に並んでいる渉太は蚊帳の外だった。 隙を見て律仁さんが渉太の方にアイコンタクトをとってくることから、彼でも処理できない程お手上げなのだろう。ここまで姉の押しが強いとは思わなかったが、また渉太が言ったところでキツく返されて尻込みするのが目に見えていた。「俺のだから触らないで」などと自己主張する勇気が持てる訳もなく……。 律仁さんの隣を死守されたまま拝殿で参拝を済ませる。 渉太は『ずっと律仁さんと楽しく過ごせますようにと、就職祈願を祈って隣の二人を見ると梨渉と律仁さんは、手を合わせたまま祈り終えていないようだった。 渉太が顔を上げてからほんの数秒して梨渉が顔を上げたが、律仁さんは俺らが祈り終わっても、ずっと祈っていた。漸く顔を上げて、「待たせて、ごめんね」と声を掛けてきた律仁さんに真剣に何をお願いしていたのかと喉元まで言葉がでかかったが、人に話せば効力がなくなると聞くし、敢えて聞くことはしなかった。  拝殿で参拝を済ませると、折角だからと律仁さんの提案によって授与所で御守りを納めることにした。此処のやしろは安産祈願で有名な神社。 夫婦で来ているのか、お腹の大きい妊婦さんもよく見かけ、御守りを手にして幸せそうな表情ですれ違う姿が微笑ましかった。  勿論、俺たちには無縁ではあったが、幸守りがあったのでお互いに納めて、渡すことにした。律仁さんがいつまでも幸せでありますように、と願った守り。梨渉の目を盗んで交換をする。  肝心の梨渉というと、妊婦さんがお腹を摩りながら歩いて、幸せオーラ全開の夫婦を眺めては自分の腹部に手を当てて何処か寂しそうな表情を見せていた。 律仁さんが気を遣って梨渉にも何か御守りがいるか声を掛けていたが首を振っていたので、先ほどの律仁さんにぐいぐいと腕を組んでいた勢いはいずこへといった様子だった。 てっきり律からのプレゼントだと喜ぶかと思っていたが、参拝後からどこか浮かない表情をしている。 目的も果たしたことだし、律仁さんのこともあるのであまり長居はできない。 「梨渉?」 神門前で拝殿に一礼をしてから社を後にしようしたとき、誰かの声が梨渉のことを呼び、渉太と律仁さんも足を止める。少し離れた場所から、一人の青年が此方に向かって来ては、梨渉に近づくと彼女の腕を掴んだ。

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