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強引な姉と彼女の事情と⑦

「渉太くん、君たちの両親には俺からちゃんと説明しようと思うんだけど。今、梨渉のお腹には俺との赤ちゃんがいて妊娠四週目なんだ……」  当の本人である姉は顔を俯けて黙っている中で、代わりに綾瀬くんが事情を説明してくれた。梨渉と綾瀬くんは、同級生の幼馴染であったが、高校から最近まで連絡すらとっていない仲であったという。 今年の夏に同窓会で再開し、連絡を取り合うようになったが交際には発展していなかったという。 理由は梨渉が医者の彼氏と交際していたからだった。 姉は昔から格好良くてそれなりに地位のもった異性を好んでいたのは何となくであったが知っている。度々、医者やら高学歴の異性と合コンをしていることも。 それが、どうしてこのような事態になったかというと、梨渉が医者の彼氏に弄ばれて振られ傷心していたところ、綾瀬くんとそういう流れでしてしまったらしい。 貞操の硬い渉太からしたら、交際もしてないのにそんな流れでしてしまう姉に驚きではあったが、幼いころから綾瀬くんが何となく梨渉に好意を寄せていたのは知っていたので納得はできた。 それに事情を聞いたことで今朝方、梨渉が具合悪いと言って部屋に籠っていた理由が悪阻からくるものだったのかと繋がる。 「俺はちゃんと認知して、梨渉と赤ちゃんと一緒に生きる覚悟でいるんだ。梨渉とも話し合って、おろすつもりはないって言ってくれてたし……」 「姉ちゃん、そうなの?」  目元に涙を滲ませ、俯いたままの梨渉に問い掛けると、両手で顔を覆って控え目に声を出しながら泣き始めた。 「最悪……。よりにもよって律の前でこんな話しなきゃいけないなんて……」 「こんなって、俺たちにとって大事なことだろ?なのになんで急に、浅倉さんと付き合うとかそんなこと言うんだよ。これからお前はお母さんになるんだぞ?」  目先のものに気を取られ、責任感のない梨渉の発言に深く眉間に皺を刻んだ綾瀬くんはテーブルを右手の拳で強く叩く。 きっと本人は不覚だったのだろう。未だに覚悟ができず、迷いの間で揺れている姉と父親になると決心を固めている綾瀬くんにどう反応していいか分からないが、このまま二人を野放しにするのはいけない気がする。  渉太は「綾瀬くん。落ち着いて……。あんまり、刺激すると姉ちゃんのお腹にも良くないと思うから……」と梨渉に対してご立腹な綾瀬くんを宥めると、両手を祈るように組んで額に当て、テーブルに肘をつけると溜息を吐いていた。 経験が浅い渉太では、なんて言葉をかけてあげるのが正解なのか分からない。  テーブルの下で両手を組んで、渉太も俯き黙ったことで座席の一帯が沈黙に包まれた。 そんな重々しい空気の中で隣の律仁さんがテーブルに身を乗り出して「ねえ、梨渉ちゃん」と話し掛けていた。

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