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強引な姉と彼女の事情と⑩
それが渉太を励ましてくれているようで、再び渉太に勇気を与えてくれる。
「オレっ。実は……り、律仁さんと付き合ってるんだっ……。家族だからちゃんと話さなきゃって思ってたんだけど……」
自分の彼氏を紹介する恥ずかしさと目の前の姉と綾瀬くんの反応への不安心が織り交ざる。
「は?付き合ってるってどういうこと?」
梨渉は口をあんぐりと開けると眉間に皺を寄せて問うてきた。微かに怒気が込められたような問いかけに怯んでしまいそうになるが、もう後には引けない。
「恋人同士なんだっ……」
「は?恋人って……あんたってゲイだったの⁉つか、律に恋人がいて、しかも
それがあんたなんてショックなんだけど」
「梨渉。あんまり渉太くんを小突くのは良くないよ。でも、なんでまた渉太くんが……」
不機嫌な梨渉と驚きを隠せない表情で俺を見てくる綾瀬くん。
いずれ、律仁さんとの将来のことを考えるのであれば必ず通らないといけない道。
けれど、やはり梨渉の表情や発言からして快く思っていないのではないかと伺える。
思ったことをハッキリと口にする姉だから、彼女の発言は槍で突くようにぐさりと心に刺さった。
すると、律仁さんが俺の一歩前に出てくると帽子をとって深く頭を下げた。
「梨渉ちゃん、ごめんね。隠していたわけじゃないんだ。渉太も渉太なりに悩んで、タイミングみて話したこと汲んであげて?でも、俺のファンで居てくれている以上、ショックを与えてしまったことは謝るよ。律でアイドルだったとしても誰かを愛したいって気持ちはあるし、それが俺のファンであることも変わりないよ。でも、律仁としてひとりの人として……。綾瀬くんが君のことを好きなようにひとりの人を愛したいって気持ちもあるんだ。それが俺にとっては渉太で、梨渉ちゃんは家族だからこそ、俺は性別なんて関係なく渉太のことを心から愛しているってことも理解してもらえたらな―って思う」
身内の前でこんなにも赤裸々に、けれど真剣に話してくれている律仁さんの俺に対する愛情の重さが伝わってくる。恥ずかしい反面嬉しくもあるが、梨渉の反応が気になるところだった。
「別に……。律に恋人ができたら反対派とかいるけど、私は律が幸せでいるなら恋人がいてもいいと思う。むしろ一途に誰かを愛している人がいるのは好感持てるけど……なんか弟だから悔しい」
一先ず姉が俺たちの交際について否定的ではなかったことに安堵したが、腕を組み、唇を尖らせている姿から多少なりとも俺が律の恋人であることに不満があるようだった。
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