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第3話
その日から、僕の頭の中は彼で一杯になってしまった。寝ても覚めてもリチャードのことしか考えられなかった。目を閉じれば、いつでも目の前に彼の姿を思い浮かべることが出来た。
まるで彼がすぐ側にいるみたいな気分だった。
彼に会いたい。彼と実際に会って話をしてみたい。彼はどんな声なの? どんな風に笑うの? どんな表情で僕と話してくれる?
考えれば考えるほど、彼の事が頭から離れなくて、しまいには夢の中にまで彼が出てきた。夢の中の彼はとても優しくて、僕の話を一生懸命に聞いてくれて、にっこりとすごく素敵な笑顔で僕のことを見つめてくれた。
「リチャード」
僕が彼の名前を呼ぶと、彼はとても嬉しそうに「レイモンド」と名前を呼んでくれた。
「僕のことはレイ、って呼んでよ」
僕がそう言うと、リチャードは深い蒼い瞳を細めて「レイ」と言ってくれる。
でも彼の声はちゃんと聞こえないんだ。
だって、僕は彼が実際に喋っているところを見たことがなかったんだから。
それは何度目かのAACU発足に関するミーティングに参加していた時のことだった。
参加者は僕と叔父さんだけの、気軽な朝食を兼ねたミーティングだ。いつもは他のMETの関係者が参加していたけれど、この日は叔父さんと二人だけだった。
だから勇気を振り絞って、以前から尋ねてみたかった件を口にした。
「なんだ、レイどこで彼のことを聞いてきたんだ?」
叔父さんは僕がリチャードの名前を出したら、すごく驚いた顔をしてそう言った。
「随分情報通じゃないか。いつの間にレイはMETの内部情報にそんなに詳しくなったんだ?」
「……ヘンドンの校長にセレモニーの時に聞いたんだよ。彼、将来の警視総監候補生の一人だって」
「そうだったのか。ジョーンズくんは優秀だから、確かに、将来この椅子に座る可能性は高いな」
「……叔父さん」
「ん? 何だ?」
僕の心臓は今にも破裂しそうなくらいドキドキしていた。でも今を逃したら二度とこの件を話題にすることができないような気がしたから、思い切って話してみた。
「ジョーンズさんをAACU(Art&Antiques Crime Unit/美術&アンティーク犯罪捜査課)に引っ張ることは出来ないかな」
僕の言葉に、叔父さんは数秒間黙ったままでいたけれど、最終的に口を開いてこう言った。
「彼は希望していた特別犯罪捜査部への配属がもう決まっているから、今更部署変更は無理だ……」
「……そう」
「レイ? 何故彼を?」
「ううん、いいんだ。新設のAACUには優秀な人材を投入して、早期に実績を挙げるのが周囲を納得させる一番いい方法だと思っただけだから。彼を入れるのが無理なら、その分僕が頑張るよ」
僕は内心の落胆を隠して、空元気の笑顔を見せた。
叔父さんはそんな僕の顔を見て、まだ何か言いたそうにしていたけれど、それ以上の言葉を続けることはなかった。
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