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第4話
それから3年ほどが過ぎたある日のことだ。
その間色んな事があって、ひどく落ち込んだり、自暴自棄になった時期もあったんだけど、ローリーの支えや、叔父さんから依頼されるAACUの仕事のお陰で何とか日々暮らしていた。
その日も叔父さんからの依頼でMETの庁舎に朝から出かけていた。僕は滅多にAACUの仕事の為にMET庁舎に実際に行くことはなかった。大抵はAACUのスタッフがギャラリーまでお使いに来ていたんだ。だけど、そいつがひどい奴で、僕は毎回すごく傷ついていた。でもそれを言うと、叔父さんにまたきっと余計な心配をかけちゃうから、黙って我慢してたんだ。
その少し前に僕が関わったある件で、叔父さんには迷惑をかけてたから、もうこれ以上自分の我が儘で叔父さんに心配をかける訳にはいかなかった。
いつもAACUのスタッフがギャラリーに来る日は、彼の代わりにリチャードが来てくれたら、って想像してやり過ごしてた。
もしも彼が、リチャードが僕のギャラリーに来てくれたら……何てエキサイティングなんだろう。僕の話をきっと彼なら何も言わずに黙って聞いてくれる。そしてちゃんと建設的な意見で返してくれるんだ。とても有意義な会話になるだろうな。今のお使いに来てる横暴な巡査とは大違いだ。
そう夢想して彼のひどい態度に堪えてたんだ。
そして叔父さんとのミーティングを終え、自分のギャラリーに帰る時のことだった。叔父さんは丁度出かける用事があり、ギャラリーまで送ってくれるというので、運転手役の秘書官のシドニー警部補と三人でリフト待ちしていたところだった。
リフトのドアが開くと、中から二人の男性が出てきた。
僕はその内の一人を見て息を呑んだ。
――リチャード。
リチャードはダークグレーの三つ揃いのスーツを着て、ブロンドヘアを後ろに綺麗に撫で付けていた。その姿が本当に素敵で、僕は目が離せなくて見入ってしまった。
リフトを降りたリチャードともう一人の茶色の短髪の男性は、目の前に立っているのが警視総監だと認めると、すぐに脇によって「サー(Sir/目上の人に対する敬称)」と挨拶する。
「ジョーンズ巡査、いや巡査部長に昇格したんだったな。随分早い昇格で、このまま警部まであっという間じゃないのか? これからのきみの活躍を期待しているよ」
「ありがとうございます」
リチャードは叔父さんの言葉にふっと、嬉しそうに表情を崩すと礼の言葉を口にする。
――リチャード、こんな声……だったんだね。
僕は初めて彼が話しているところを聞いて、胸が一杯になってしまった。
リチャードと連れの男性はそのまま軽く会釈すると、行ってしまった。
叔父さんとシドニー警部補と共にリフトに乗った後も、僕はリチャードの後ろ姿が視界から消えるまで、胸に焼き付けるようにずっと目で追っていた。
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