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第9話

一体何が起きたんだ?! 「リチャード……これ、着たままでしてよ?」  妖艶な笑みを浮かべると、レイは俺の上に馬乗りになる。 「は、はあ?」 「聞こえなかったの? ユニフォーム着たままでして、って言ったの」  そう言ったレイの目は、完全にいってた。 「ま、まさかと思うけど、レイ、ドラッグやってる……?」 「ばっかじゃないの? そんなもんやる訳ないだろ? あんな非効率なもん使わなくったって、リチャードのユニフォーム姿だけで充分いけるよ」  レイは俺に馬乗りになったまま、凄みのある表情で上から見下ろす。  その様子はいつもの可憐な王女様と言うよりも、堂々たる女王様の風格があった。  って、そんなことで感心してる場合じゃない…… 「いや、その、あんまりにも、いつもと様子が全然違うから……」  俺はもごもごと口ごもりながら、ようやくそれだけを言う。正直どうしたらいいのか分からなくて、呆然としていた。  レイは上半身を屈めて俺の耳元に口を寄せると、色っぽい声でこう言った。 「Show me the heaven(天国を見せてよ)」  彼の栗色の髪がふわり、と俺の顔にかかる。レイが囁くのと同時に甘い息が耳に触れた。 ――俺の方が先に天国見そう…… 「……リチャード、先にいかないでよね」  まるでこちらの思考を読んだかのような発言をすると、彼は俺のベルトを手際よく外しながら艶然とした笑みを浮かべる。その表情はまるで娼婦のようだった。 ――やっぱり、何か変なものを食べるか飲むかしたんじゃないのか?!  絶対にいつものレイとは違う。何か変なスイッチが入ってる……と俺が思っている間に、レイは自分がやりたいように自分勝手に事を進めていた。  今までレイがこんなに積極的になったことは一度だってなかった。大抵は俺にされるがままで、俺がどうして欲しいのか彼に尋ねても恥ずかしがって言葉にしようとはしない。それが突然別人になったかのような様子に、俺はもう何が何だか全然分からなかった。  一体彼のどこにこんな別人格が潜んでいたんだろう? 「リチャードはじっとしてていいから……」  彼はそう言った。  いや、言ったような気がした。その時にはすでに、今までには感じた事がないぐらい強い快感に支配されていて、俺の意識はぶっ飛んでた。必死になって、俺の上に乗った彼の腰を支えてたような気はするが、それ以外の事は何も覚えてなかった。  気が付いた時には俺の隣でレイがぐったりとなって、横たわっていた。ぼんやりとした目で俺の事を見つめている。 「……大丈夫か?」 「んー大丈夫じゃないかも」 「どこか痛い?」 「違う。……その、こんな感覚味わったことなかったから、どう自分の中でこの感覚を表現したらいいのか分からないんだ」  俺は思わず黙り込んでしまう。 ――そのセリフは俺の方が言いたいよ。 「何? 何が言いたいの?」  レイが怠そうに体を俯せから横向きに変えて、俺の方を向く。 「レイ……良かった? その、俺何にもしてなかったんだけど……」 「……リチャード、本当に僕に天国見せてくれたよ?」  レイは恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めた。彼の白くて細い指がユニフォームのジャケットの上を繊細な動きでまさぐる。 「リチャードのユニフォーム姿、最高」  レイは甘い声で囁くようにそう言う。 ――いや……レイ、きみが最高だから……  俺はその言葉を口に出しかけて、飲み込んだ。きっと今その言葉を口にしたら、彼は恥ずかしがって二度とあんな真似をしてくれなくなるに違いない。それもちょっと惜しい。  俺は黙って彼を抱き締めた。  レイは少しだけ顔を上げると、俺に向かって小さな声で「僕、幸せだよ、リチャード」と満足そうに呟いて、目を閉じた。  その言葉を聞いて、俺は切なくて、これ以上どうしようもないぐらい、レイを愛おしく感じていた。  レイは規則正しい寝息をたてて眠っている。きっといつもと違うことをして疲れたのだろう。そんな彼の髪にそっとキスをして、ベッドを抜け出す。  流石にユニフォームを着たまま寝る訳にはいかない。  ベッドの下に投げられていたボトムスとベルトを拾い上げ、ハンガーに掛ける。そしてジャケットとシャツを脱いでこれも掛けた。ネクタイは椅子の上に載せる。 ――しかし……まさかユニフォーム着たままでするとは思わなかったな。  と、思ってから、ふとセーラが言った言葉を思い出した。 「一体、何のプレイよ? 制服プレイ?」 ――やばい……バレないようにしておかないと……  セーラにこのことを知られでもしたら、また何を言われるか分かったもんじゃない。  俺はワードローブの自分の私物を置かせて貰っている棚から、自分用のTシャツとトランクスを取り出すと着替えて、レイの隣に潜り込んだ。  レイはすっかり寝入ってしまって、目を覚ます気配すらなかった。  手を伸ばして、そっと眠っているレイの頬に触れる。  そんなに俺のユニフォーム姿が好きなのか? どこがそんなにいいんだか、自分ではさっぱり分からないんだが……  彼の愛らしい天使のような寝顔を見ているうちに、俺もいつの間にか眠っていた。

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