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へべれけ
「ただいま」
「おかへり~」
リビングにつながるドアの向こうから、気の抜けた春輝の声が聞こえてきた。
今日は休みだったはず。さすがに一日では疲れが取れなかったか。
心配しながらも、洗面所で手を洗ってからリビングに向かう。
「おかへり~、とーじ!」
ローテーブルに半分空いた一升瓶を置いて、春輝がこちらに大きく手を振っている。
「うわ、酒くさ」
春輝の周りから酒の匂いが漂う。
うまくろれつが回っていない。酔っているのは明らかだった。
「どうしたんだよその酒」
「もあった!」
瓶の口を握りしめ、高々と掲げている。
ふたりのどちらも買わないような、力強い筆のラベルの瓶だ。度数の高さがうかがえる。
「……落とすと危ないから、預かるぞ」
「はい!」
半ばひったくるように瓶を受け取ったのに、やけに上機嫌だ。無邪気な笑顔と酒の匂いを振りまいている。
よそで同じことをしていないといいなと思って、はたと気づく。
「春輝、なんでそんなに酔ってんだ?」
普段ふたりで呑んでいても、ここまで酔いが回ったところは見たことがない。
「ん~?ふふふふ。ちゅーしてくれたらおしえう」
「うわめんどくさ、酔っ払いめ」
仕方なく頬にくちびるを寄せた。
「もー!ほっぺじゃない!」
春輝が顔をしかめてぐずる。かわいいから、意地悪してやりたくなる。
「晩メシはどうした」
今日の分はもう作ってあって、温めるだけにしてあったはず。遅かったら先に食べていいと言いおいてもあった。
「とーじが帰ってくるの、まってた」
なるほどな。空きっ腹に酒を入れたから、いつもと違う酔い方をしたのか。食卓テーブルにはもう用意ができていて、あとは温めるだけになっている。
久しぶりの出勤で帰りが遅くなるだろうからと予告した通り、すでに21時を回っていた。
「あー、ほんと。そういうとこ」
手で顔を覆って、大きく息を吐いた。春輝はまだにこにこしている。
「そういうとこが、なに?」
「……かわいい」
「かわいいだけ?」
「ん、好き」
「ふふふ、よかったぁ」
そう言ってソファから立ち上がると、千鳥足で食卓に向かおうとする。危ないからと手を取ったら、春輝が上機嫌で振り返った。
「ね、たべようよ」
ぐいぐいと手を引かれ、食卓についてから気がつく。
「いや酒は待てなかったのかよ!」
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