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髪
日勤から帰ってきたら、信じられない光景が目に飛び込んできた。
さっぱりとしたツーブロックの冬治が出迎えに来た。今朝までは耳が隠れるくらいの長さだったのに。
「どうして? どうしてそんなことしたの? 僕に相談もなく! 」
僕が大きな声を出すことはほとんどない。それこそ家にゴキブリが出ただとか、お化け屋敷で脅かされたときくらい。それくらい驚いた。
あんまり驚いたから、冬治の両肩を大きく揺すってしまった。冬治は目を回したのか、目をしばたかせている。
「暑いから切った」
あまりにもありふれた理由でがっくりきた。前の髪型も似合っていただけに、ちょっともったいない気がする。
「似合わない、か?」
僕から目をそらして横髪をつまんだ。
「ごめん、そういうことじゃないんだよ」
冬治を傷つけてしまったみたいだった。
一度呼吸と思考を整える。自分の気持ちが伝わるように、一生懸命言葉を選んだ。
「前のも似合ってて、でも急に切ったからびっくりしちゃった」
横髪をつまんでいた左手を、右手で包み込む。
「似合ってる。とっても。今度、その髪に合う服を買いに行こう」
今持ってるラフな服も似合うだろうし、新しくかっこいい服を買っても似合うと思う。
「ん、よかった」
薄く微笑んだ冬治を見て、ほっとした。
「ね、その後ろの刈り上げてるところ、触っていい?」
ほっとしたからか、自分ではやらない髪型だからか、ちょっと興味が湧いた。
触りやすいように、冬治が僕に背を向けてくれる。
「ほら」
「うわ、じょりじょりしてる」
刈り上げられたばかりの髪の断面はとがっていて、指先でなでると癖になる手触りだ。
「あんま触られると……くすぐったい」
「わ、ごめん」
少し赤くなった耳が、あんまりかわいかったから。つい抱きしめてしまった。
「ごめんね」
さっき驚きすぎて傷つけた分も謝りたくて、うなじにキスをした。
「うん」
僕の手の甲に、冬治の手のひらが重なる。
汗ばんだ手はしばらく離れなかった。
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