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第14話

 The Diary of Lord Wimborne/ウィンボーン卿の日記・5  僕とエレノアが親しい仲になって、もうすぐ半年が過ぎようとしていた。あの鮮烈な印象を僕に与えた、カルメンのミカエラ役の彼女と出会ってからは1年だ。もうそんな時間が過ぎ去ろうとしていたなんて、本当に信じられない。  そして、もうすぐ彼女の誕生日がやって来る。僕はこの日のために昔からの知り合いに頼んで特別なプレゼントを用意した。きっと彼女は喜んでくれる筈だ。  初めて出会った時に、彼女が演じていたミカエラ役を思い出させるような、そんな素敵なプレゼントだ。  あれから幾つもの役を彼女は演じてきて、僕はそのどれもが彼女に相応しい素晴らしい役だと思っていた。だが、ミカエラ役だけは特別だった。  だってあの役を演じていなければ、僕は彼女に出会えなかったのだから。  そう思うと、あの日、僕が卒業コンサートに出席していたのは、まさに奇跡と言っても良かった。  手厳しい現実主義者の母親から、いつも小煩く奇跡なんてあり得ないのだ、と諭されるように言われ続けて来た僕が、今や奇跡を信じているなんて、あの人が聞いたら笑うだろうか? それともまた怒り出して杖で僕を強かに叩くだろうか? どちらにしても、もう僕には関係のないことだ。  僕はもう立派な大人で、あの人からあれやこれやと指示される謂われはないのだから。  だからエレノアのことも自分で決めた。僕にとって本当に必要な人だと思ったから。  彼女と幸せになりたい。  これは僕の心からの願いだ。もしもこの願いが叶うのなら、この先の僕の願い事なんて何一つ叶わなくても構わない。  小さい頃から無理矢理教会に通わされ続け、学校でも祈りの時間が一番嫌いだった僕が、神に願い事をする日が来たなんて信じられるか?  だがこれが真実なんだ。僕は今、神を信じている。神は僕とエレノアを巡り合わせてくれた。これが奇跡と言わずに、何だというんだ。  そして僕は心から神に祈っている。僕とエレノアの未来を祝福して欲しいと。  彼女の誕生日に、僕は彼女に告げるだろう。  僕たちの未来は共にあるべきなのだ、と。  彼女は何と答えてくれるだろう? あの日、僕が初めて彼女を食事に誘った時のように、少し頬を赤らめて「喜んで」と答えてくれるだろうか。僕はそうであればいいと願っている。いや、きっとそうだろう、と確信している。  神はそうなるように僕たち二人を創り上げたのだから。

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