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第30話
13.
「リチャード、どう思う?」
ハワードが車のハンドルに両手を載せて尋ねる。
「彼女の話は信用してもいいんじゃないかな。疑う理由がない」
「確かにな……」
ハワードは思案したような表情で黙って正面を見ていたが、ふと何かに気付いて「おい、リチャードあれ見ろよ」と声をかける。
リチャードはハワードに言われて、角地に建つガートフィールド家に目を遣る。こちら側から見て、玄関が面する大通りから右手に入る脇道に、建物の側面の高い塀が隣の家まで続いていた。その塀の一部分に駐車場の出入り口らしきシャッターがある。だがそのシャッターは今、半分ほど開けられて、中から一人の男性がこそこそと周囲を伺うように出てくるところだった
グレンだ。
「何やってんだ、あの男……」
ハワードが不審そうに、じっと彼の行動を見つめる。グレンは周囲に誰も見ている人間がいないことを確認すると、どこへともなく歩き去った。
「そう言えば、グレンの証言も怪しかったな」
リチャードは、グレンがカフェで時間を潰していたと言う割には、店がどこなのかと聞くと、途端にしどろもどろの反応になったのが気になっていた。
「後で、スタッフにオックスフォードストリート沿いにある店、全部当たらせるよ」
「ああ、そうしてくれ」
「家の中の間取りがどうなってるのかも、この次の訪問時に尋ねた方が良さそうだな。もしかしたら、あの駐車場の出入り口を使ったら、他の家人に見られずに出入りが可能なのかもしれないぞ」
ハワードの言葉に頷きながら、リチャードは駐車場の出入り口の隣に小さく取ってある裏木戸が目に入り、妙に気になった。
――家の中を、きちんと見せて貰った方が良さそうだな……
「あー、降って来やがった。本当に近頃天気が悪いな」
ハワードの言葉ではっと我に返ると、車のフロントスクリーンに大粒の雨が叩き付けていた。
「署に戻ろう」
「言われなくてもそうするよ。こんな雨の日は、オフィスで大人しく仕事してるのが一番だな」
ハワードはそう言って、前後を通行する車輌がないことを確認すると、ハンドルを切って車を出した。
その日の午後は、何となしに過ぎていった。いつもよりも時間が早く過ぎるようにすら感じる。リチャードは相変わらず降り続く雨を見ながら、悲しい顔をして自分の腕の中で泣いていたレイを思い出していた。
――やっぱり、今日ギャラリーに行こう。
今朝、電話で会うのを拒絶されたが、どうしても彼に直接会って顔が見たかった。声が聞きたかった。許されるのなら抱き締めて、何も心配しなくていい、と言いたかった。
電話じゃ駄目だ。きちんと顔を見て話さないと。リチャードは仕事が終わったら、すぐにギャラリーに行こうと決めて仕事に集中した。
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