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第41話

 ドアを開けて貰い中に入ると、昨日と同じ面々がそれぞれ不機嫌な顔でソファに座って、ハワードとリチャード、そしてレイを冷たい目で見ていた。  やりにくいな、と思いつつハワードが口を開く。 「何度も申し訳ありません。どうしても確認したい事項がいくつかありまして、もう一度話を伺わせて下さい」 「どうしても、と言うから時間を空けたんですよ。出来ればこれっきりにして頂きたいですな」  ポールが吐き捨てるように言う。ハワードはその言葉に一瞬むっとした表情を浮かべるが、挑発には乗らないとばかりに落ち着いた声で言い返す。 「特に、ポールさんにはアリバイについて、もう一度はっきりと確認して頂きたいので、私の質問にお答え下さい」 「アリバイ? もう最初に会った時に話しただろう? 俺はあの日は一日中家の中にいたんだ。ベイカーの店には行ってないし、奴を殴ったりしていない!」  いらいらした様子で怒鳴ると、ポールはぷいっと子供のようにふて腐れて顔を背けた。 「家の中に一日中いた筈のあなたが、ボンドストリートを歩いているところを目撃されているんですけど、それはどうお答えになりますか?」  ハワードの言葉に、ポールの顔色が変わる。今まで怒りで赤くなっていたのが、一瞬のうちに青ざめるのが、端から見ていても気の毒なほど丸わかりだった。 「……そ、それは」  リチャードは気になって、スザンナの様子を目の端で伺う。ブラックのミニドレスを纏い、今日も上から下まで一部の隙もないほどファッショナブルに決めた彼女は、黙ってポールを見ていたが、その表情はどこかしてやったり、といった風だった。 「ポールさん、お答え下さい。今この場でお答え頂けないようなら、署まで来て頂くことになりますが?」 「あ……あの日は、少しだけ散歩に出たんだよ。ボンドストリートなんてここからすぐだろう? ちょっと散歩に行くのに丁度いいんだ」  苦し紛れ、と言った様子でポールが何とか答えると、ハワードは畳みかけるように言葉を重ねる。 「オックスフォードストリートにあるブッキー(賭け屋)のCCTV(監視カメラ)にあなたの姿が映ってたんですけど、それはどうご説明されますか?」 「……」  ポールは、真っ青な顔のまま俯いた。 「黙秘権をお使いになるおつもりですか? 署の方まで来て頂くことになりそうですね。そちらで弁護士をご依頼されるようでしたら、今のうちに連絡して下さい」  リチャードが重々しく口を開く。その言葉の重みをポールも感じ取ったのか、顔を上げると、リチャードを睨み付けながら言葉を発する。 「ちょっと、ブッキーまで散歩に行っただけだ……」 「ではあの日、賭け屋に行ったのは、お認めになるんですね?」  リチャードがそう言ったのと同時に、妻のエカテリーナが突然金切り声を上げる。 「ポール! 賭けはもうしないって、あんなに約束したじゃないの!」  今にも掴みかからんばかりの形相で、隣に座るエカテリーナは立ち上がった。 「エカテリーナさん、落ち着いて下さい」  ハワードが慌てて二人の間に割って入る。 「この人、3年前に賭けのせいで全財産を失うところだったんですよ?! 私が何とか助けてあげたのに、もうその時のことを忘れて……信じられない。どんなに苦労して私がお金を工面したか思い出してよ!」 「わ、忘れた訳じゃないよ! ……でも賭けを止めることが出来なかったんだ。もう借金するほど熱くなったりはしていない! ちょっと遊び程度に賭けてるだけだよ」  ポールは苦しい言い訳を口にする。エカテリーナはまったく彼の言い分には納得していない様子だった。  エカテリーナが苦労して金を工面した先は、ロシアンマフィアだったのだろうか、とリチャードは思う。 「二度と賭けはしない、ってあの時あんなに言ったのに、嘘だったってことね?」 「……」 「刑事さんたちはもうご存知だと思いますけど、この人オンラインポーカーに夢中になって、莫大な借金を作った挙げ句、借金返済の為に勤めていた会社のお金を横領して捕まったんです。その後、私が何とかお金を工面して借金は返済しました。その時に、もう二度と賭けには手を出さない、って約束したんですよ。それなのに……」  エカテリーナは悔しそうな顔をして、ポールを睨み付けた。 「カーチャ、悪かったよ」  ぼそっとポールが呟くように謝る。エカテリーナはまったく信じていない様子で、その言葉を聞き流した。 「ではあなたは、あの日の午後オックスフォードストリート沿いにある賭け屋へ行き、その後ボンドストリートを通って……その後どうされたんです? ベイカーアンティーク店へ行ったんですか?」  リチャードの問いに、ポールの顔が更に青くなった。 「まっ、まさか! ベイカーアンティーク店になんて絶対に行ってないぞ! ブッキーで1時間ほど過ごした後は、家に真っ直ぐに帰ったんだ。その後は一歩も外になんて出てない」  怪しいな、とリチャードとハワードは思っていたが、とりあえず信用したふりをして、そこで質問を打ち切った。

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